Z-Spread

Zスプレッド

価格形成

Zスプレッドとは、債券の市場価格と将来CFの現在価値が等しくなるよう、基準となるゼロクーポン・イールドカーブの各金利に一律に上乗せされる利回り差です。 「Z」はゼロクーポンに由来し、信用リスクや流動性リスクなど、債券の包括的な上乗せ金利(リスクプレミアム)を示します。 相対価値評価やリスク分析に利用され、オプション価値も含むためオプション調整後スプレッド(OAS)とは区別されます。

マークダウンの解析中にエラーが発生しました
### Zスプレッドの定義と意味 Zスプレッドとは、参照となる無リスク金利のイールドカーブ(これは、満期までの期間が異なる複数の金利水準を線で結び、グラフで示したもので、通常は国債のゼロクーポン・イールドカーブが用いられます)の各金利に対して、債券の市場価格とその将来得られる全てのキャッシュフロー(クーポンと元本)の現在価値が等しくなるように、一律に上乗せされるスプレッド(利回り差)のことです。 この「Z」は、計算の基準としてゼロクーポン・イールドカーブ(Zero-coupon yield curve)が用いられることに由来すると言われています。 言い換えれば、投資家が、その債券が持つ信用リスクや流動性リスクなどを引き受ける対価として、無リスク金利に加えて要求する追加的な利回り(リターン)の総計を、イールドカーブ全体にわたって均一に示したものと解釈できます。 ### 計算の考え方 Zスプレッドの計算は、債券の現在の市場価格を「P」、各期(期1、期2、...、期n)に発生するキャッシュフローをそれぞれ「CF1、CF2、...、CFn」、各期に対応するゼロクーポン・スポットレート(年率)を「r1、r2、...、rn」とした場合に、これらとZスプレッド(Zとします。これも年率です)の間に成り立つ関係式を満たすZの値を見つけるプロセスです。 具体的には、各期のキャッシュフロー(例えば、期1のCF1)を、その期に対応するスポットレート(r1)にZスプレッド(Z)を一律に加えた割引率(r1 + Z)で割り引いて現在価値を求めます。そして、全てのキャッシュフローの現在価値の合計が、現在の市場価格(P)と等しくなるようにします。 年1回複利を仮定した場合、この関係は以下のような簡易的な式で表現できます。 P = CF1 / (1 + r1 + Z)^1 + CF2 / (1 + r2 + Z)^2 + ... + CFn / (1 + rn + Z)^n このZの値は、通常、直接解くことが難しいため、コンピューターを用いた反復計算などの数値解法によって求められます。重要なのは、各期の割引計算に用いるスポットレート(r1, r2, ..., rn)は期間ごとに異なりますが、Zスプレッドはイールドカーブ全体に対して平行に上乗せされる、ただ一つの一定の値として求められる点です。 ### オプション調整後スプレッド(OAS)との違い - オプションが付いていない通常の債券(プレーンバニラ債)の場合、Zスプレッドとオプション調整後スプレッド(OAS)は理論的に一致します。 - 一方、期限前償還条項付き債券(コーラブル債)やプッタブル債などのオプション付き債券の場合、Zスプレッドの計算は債券価格に内在するオプション価値を分離しません。そのため、Zスプレッドにはオプションのリスクプレミアムも包含されたスプレッドとなります。 - これに対し、OASは、オプションの価値を価格モデル(例: 金利の確率過程モデルを用いたシミュレーションなど)で評価し、その価値を債券価格から控除(またはスプレッドから調整)した上で、純粋な信用リスクや流動性リスクなどによるスプレッドを算出したものです。したがって、例えばコーラブル債(発行体が有利な時に早期償還できるオプションを持つ)の場合、投資家はそのオプションの売り手となるため、その分のプレミアムを要求します。結果として、OASはZスプレッドよりも小さくなる傾向があります(Zスプレッド - オプション価値に相当するスプレッド = OAS)。 ### 利用場面と分析 - **相対価値評価:** 異なる債券間、特にキャッシュフローのタイミングが異なる債券や、仕組債などの間で、基準となる無リスク金利カーブに対する上乗せリターンを比較評価するのに適しています。例えば、同様の信用格付けを持つ異なる債券のZスプレッドを比較したり、特定の債券のZスプレッドを、その年限に対応するスワップ・スプレッドや、他の市場指標(例: 国債に対する特定セクターの平均スプレッド)と比較したりすることで、相対的な割安・割高感の判断材料とします。 - **リスク分析・管理:** 債券ポートフォリオの信用スプレッド・デュレーション(CS01やZ-Spread01:Zスプレッドが1ベーシスポイント変化した場合の価格変動額)を計算する際の基礎となります。また、特定のストレスシナリオ(例: 信用スプレッドの大幅な拡大)がポートフォリオ価値に与える影響を評価するストレステストにも利用されます。 ### 市場環境による変動 Zスプレッドは、経済環境や市場のセンチメントによって変動します。 - **信用不安期:** 金融市場全体で信用リスクへの懸念が高まると、投資家はより高いリスクプレミアムを要求するため、一般的にZスプレッドは拡大(ワイドニング)する傾向があります。 - **流動性低下局面:** 市場の流動性が低下すると、換金性のリスクが高まるため、Zスプレッドに織り込まれる流動性プレミアムが上昇し、スプレッドが拡大することがあります。 - **景気回復期:** 経済見通しが改善し、企業の信用力が向上すると、Zスプレッドは縮小(タイトニング)する傾向が見られます。 ### 算出上の注意点 - 計算には、基準となる信頼性の高いスポット金利カーブ(通常はゼロクーポン国債イールドカーブ)が必要です。 - 計算は、単一の利回り(YTM)を求めるよりも複雑であり、専門的な知識やシステムが必要となる場合があります。 Zスプレッドは、イールドカーブ全体の形状を考慮して債券のリスクプレミアムを評価するための、より精緻な指標の一つと言えます。

同義語・略語

ゼロボラティリティ・スプレッド, Zero-volatility Spread

関連用語
Basis Spread

ベーシススプレッド

主に金利ベーシススワップにおいて、異なる変動金利指標間で交換される金利に付加される固定のスプレッド(上乗せまたは割引)のことです。二つの指標間の市場での評価差(信用リスクや流動性の差など)を反映しています。

Crack Spread

クラッキングスプレッド

クラッキングスプレッドとは、原油を精製して得られる生成品(ガソリン、ディーゼルなど)の価格と原油価格との差を表す指標です。石油精製業者にとっての収益性を示すもので、生成品の販売価格から原油仕入れ価格を差し引いたスプレッドによって、マージンや市場の需給バランスを分析します。代表的な例として、3:2:1スプレッド(3バレルの原油から2バレルのガソリンと1バレルのディーゼルを得る前提)があります。

Spread

スプレッド(価格差)

金融市場や商品市場において、二つの関連する価格や金利、利回りなどの間の「差」のことです。文脈によって様々な意味(例: ビッド・アスク・スプレッド、金利スプレッド、クレジット・スプレッド)で使われます。

Bid-Ask Spread

ビッド・アスク・スプレッド

買値と売値の差を表す指標

Credit Spread

クレジット・スプレッド

信用リスクが異なる二つの債券(通常は、信用リスクがゼロと見なされる国債と、企業が発行する社債)の利回りの差のことです。発行体の信用リスクに対する市場の上乗せ金利(プレミアム)を示します。

Spread Betting

スプレッドベッティング

金融商品やスポーツイベントなどの結果を予測し、その予測が当たった場合に、市場の動き1ポイントあたりに事前に決めた金額を受け取る(外れた場合は支払う)形式のデリバティブ取引の一種です。主に英国などで提供されています。

Interest Rate Spread

金利スプレッド

異なる信用力や通貨間の金利差

Calendar Spread

カレンダースプレッド

カレンダースプレッドとは、同じ商品の異なる満期日(限月)の先物契約間で生じる価格差を指します。主に時間による価格の構造(フォワードカーブ)を読み取る際に使われ、投資家やトレーダーが需給の変化、保管コスト、期待値などを分析する手がかりになります。例えば、近い限月が高く遠い限月が安い場合はバックワーデーション、逆であればコンタンゴと呼ばれます。

参考文献

参考文献はありません