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Technology to capture CO2 from ambient air
直接空気回収とは、大気中から直接二酸化炭素を回収する技術を指します。英語では「Direct Air Capture (DAC)」と表記され、大気中の希薄なCO2(約400ppm)を化学的- 物理的プロセスにより分離- 濃縮する革新的な技術です。回収したCO2は地下貯留や有効利用により、大気中のCO2濃度削減に直接貢献するネガティブエミッション技術として注目されています。
DACの概念は1990年代から研究が始まり、2000年代に基礎技術が確立されました。2010年代に入って商業化への取り組みが本格化し、現在では世界各地で実証プラントの建設- 運転が進んでいます。IPCCは1.5℃目標達成にDACが不可欠としており、気候変動対策の切り札として期待されています。
ネガティブエミッション: 大気中のCO2を直接除去するため、確実なネガティブエミッションを実現します。既に大気中に蓄積されたCO2の削減が可能で、過去の排出の帳消しができます。
立地自由度: 発生源に依存せず、世界中どこでも設置可能です。再生可能エネルギーが豊富な地域や、CO2貯留に適した地質条件の近くに設置できます。
スケーラビリティ: 小規模から大規模まで、段階的な拡張が可能です。技術習熟とコスト削減を図りながら、徐々に規模を拡大できます。
高純度CO2: 回収されるCO2は高純度で、様々な用途に活用できます。化学原料、燃料製造、炭酸飲料など、多様な産業での利用が可能です。
24時間運転: 太陽光や風力と異なり、天候に左右されず連続運転が可能です。安定したCO2回収量を確保できます。
気候変動対策: 各国政府や国際機関が、パリ協定の目標達成に向けてDACプロジェクトを推進しています。カーボンニュートラル戦略の重要な構成要素として位置づけられています。
企業の脱炭素化: 削減困難な排出(Hard-to-abate emissions)を相殺するため、企業がDACクレジットを購入しています。Microsoft、Google、Shopifyなどの大手企業が先行調達契約を締結しています。
石油- ガス業界: 石油メジャーがDACとCCSを組み合わせたプロジェクトを展開し、事業ポートフォリオの脱炭素化を図っています。既存のCO2輸送- 貯留インフラを活用できます。
化学工業: 回収したCO2を原料として、メタノール、合成燃料、化学品を製造しています。循環炭素経済の実現に向けた重要な技術として活用されています。
農業分野: 回収したCO2を温室の炭酸ガス施肥に活用し、作物の成長促進と収量向上を実現しています。地産地消型のCO2利用モデルとして期待されています。
DACには以下のような技術方式があります:
液体溶媒方式:
固体吸着方式:
膜分離方式:
電気化学方式:
DACプラントは以下のプロセスで構成されています:
空気取込: 大型ファンにより大気を取り込み、フィルターで不純物を除去します。効率的な空気流動設計により、エネルギー消費を最小化します。
CO2分離: 吸収- 吸着プロセスによりCO2を選択的に分離します。接触効率の向上により、分離性能を最大化します。
CO2脱着: 加熱- 減圧によりCO2を脱着し、高純度CO2ガスを得ます。熱回収システムによりエネルギー効率を向上させます。
CO2精製: 残留水分- 不純物を除去し、用途に応じた品質のCO2を製造します。
CO2圧縮: 輸送- 貯留- 利用に適した圧力まで圧縮します。多段圧縮により効率化を図ります。
DAC分野では以下のような技術革新が進んでいます:
材料技術: 新しい吸収- 吸着材料の開発により、CO2選択性とエネルギー効率が向上しています。MOF(金属有機構造体)、多孔質材料などの研究が進んでいます。デジタルツインによる予測制御も実用化されています。
熱統合: 廃熱回収、熱ポンプ技術の活用により、エネルギー消費を大幅に削減しています。
モジュール化: 標準化されたモジュール設計により、建設コストと期間を削減しています。
システム統合: 再生可能エネルギー、蓄電池との統合により、カーボンフリーなDAC運転を実現しています。
DACの経済性は以下の状況です:
現在のコスト: 150-600ドル/tCO2程度ですが、
目標コスト: 2030年には100ドル/tCO2、2040年には50ドル/tCO2の達成を目指しています。
コスト要因: エネルギーコストが全体の60-70%を占めるため、再生可能エネルギーのコスト削減が重要です。
規模効果: 大規模化により単位コストの削減が期待されます。年間100万トン規模のプラントでは大幅なコスト削減が可能です。
政策支援: 米国の45Q税額控除、EU Innovation Fundなどの政策支援により経済性が向上しています。
世界のDAC市場は以下のように発展しています:
市場規模: 2030年には数十億ドル、2050年には数千億ドル規模に成長すると予想されています。
プロジェクト数: 世界で100以上のDACプロジェクトが計画- 建設段階にあります。
主要企業: Climeworks、Carbon Engineering、Global Thermostatなどが技術開発と商業化をリードしています。
投資動向: ベンチャーキャピタル、政府、大企業からの投資が急拡大しています。
地域展開: 北米、欧州を中心に、アジア、中東でもプロジェクトが立ち上がっています。
各国でDAC普及を支援する政策が実施されています:
米国: 45Q税額控除により、DAC+貯留に180ドル/tCO2、DAC+利用に130ドル/tCO2の支援を提供しています。
欧州: Innovation Fund、Horizon Europeなどの研究開発- 実証支援により技術開発を促進しています。
カナダ: Clean Technology Investment Tax CreditによりDAC投資を支援しています。
日本: ムーンショット型研究開発事業によりDAC技術の研究開発を支援しています。
国際協力: Mission Innovation、First Movers Coalitionなどの国際枠組みで協力が進んでいます。
DACの環境- 社会影響は以下の通りです:
環境効果: 適切に運用されれば、ライフサイクル全体で90%以上のCO2削減効果があります。
エネルギー消費: 大量のエネルギーを消費するため、再生可能エネルギーの活用が不可欠です。
水資源: 一部の技術では大量の水を消費するため、水資源管理が重要です。
土地利用: 比較的小さな敷地で大量のCO2を回収できるため、土地利用効率に優れています。
雇用創出: 新産業として大規模な雇用創出が期待されています。
DACは以下のような発展が期待されています:
大規模化: 2030年代には年間数千万トン規模のDACプラントが稼働し、気候変動対策に本格的に貢献します。
コスト競争力:
用途拡大: CO2利用技術の発展により、DACの経済性がさらに向上します。
統合システム: 再生可能エネルギー、蓄電池、水素製造との統合により、総合的な脱炭素システムを構築します。
DACは、1.5℃目標達成に不可欠な技術として国際的に認識されており、技術革新と政策支援により急速な発展が期待されています。気候変動対策の最後の切り札として、今後の発展が注目されています。
水素エネルギー
水素を燃料として利用するクリーンエネルギー技術。グリーン水素は再エネ由来電力で水を電気分解して製造し、燃料電池や水素エンジンで利用します。燃焼時に水しか排出せず、エネルギーキャリアとして長距離輸送・長期貯蔵が可能で、脱炭素社会の基幹エネルギーとして期待されています。
エネルギー貯蔵
電力を様々な形態で貯蔵し必要時に放出する技術。リチウムイオン電池、揚水発電、圧縮空気、フライホイール、水素などがあります。再エネの出力変動対策と系統安定化に不可欠で、世界の蓄電池市場は2030年に120兆円規模に成長すると予測されています。
アンモニア燃料
アンモニア燃料は、水素キャリアとして注目される新エネルギー源です。燃焼時にCO2を排出せず、既存インフラが活用可能で、火力発電や船舶燃料として実用化が進む脱炭素社会の重要な選択肢となっています。
合成燃料
合成燃料は、CO2と水素から製造される液体燃料で、既存の内燃機関やインフラで使用可能なカーボンニュートラル燃料です。e-fuelとも呼ばれ、航空機や船舶など電動化が困難な分野での脱炭素化の切り札として期待されています。