MACD

概要

MACD（Moving Average Convergence Divergence、移動平均収束拡散法）は、ジェラルド- アペルによって1979年に開発された、トレンドフォロー型のモメンタム指標です。短期と長期の指数移動平均（EMA）の差を利用して、トレンドの方向性、強さ、転換点を判断します。商品先物市場では、中期的なトレンド把握と売買タイミングの判断に欠かせない指標となっています。

MACDの名前が示すように、移動平均線の収束（convergence）と拡散（divergence）を分析することで、相場の勢いやトレンドの変化を早期に察知できます。商品市場では、需給バランスの変化が価格トレンドに反映されるため、MACDはこれらの変化を捉える有効なツールとして機能します。

開発から40年以上経過した現在でも、その有効性は広く認められており、機関投資家から個人トレーダーまで幅広く活用されています。特に商品先物では、季節性や景気循環の影響を受けやすいため、中期的なトレンド判断においてMACDの重要性が高まっています。

主な特徴

MACDラインは、12期間EMAから26期間EMAを引いた値で、短期と長期の移動平均の乖離を示します。プラスなら上昇トレンド、マイナスなら下降トレンドを示唆します。

シグナルラインは、MACDラインの9期間EMAで、MACDラインを平滑化したものです。売買シグナルの基準線として機能します。

MACDヒストグラムは、MACDラインとシグナルラインの差を棒グラフで表示し、モメンタムの強弱を視覚的に示します。

ゴールデンクロスとデッドクロスは、MACDラインがシグナルラインを上抜け（買いシグナル）または下抜け（売りシグナル）する現象です。

ダイバージェンスは、価格とMACDの動きが逆行する現象で、トレンド転換の前兆として重要視されます。

実務での活用

トレンドの方向性判断では、MACDラインとシグナルラインの位置関係、ゼロラインとの関係から、現在のトレンドを把握します。

エントリータイミングの決定において、MACDラインとシグナルラインのクロスを売買シグナルとして活用します。ゼロライン付近でのクロスは特に信頼性が高いとされます。

モメンタムの確認では、ヒストグラムの増減により、トレンドの勢いが強まっているか弱まっているかを判断します。

複数時間軸での分析により、日足、週足、月足のMACDを確認し、短期から長期までのトレンドを総合的に判断します。

メリット- 効果

トレンドとモメンタムの両方を同時に分析できる複合的な指標です。一つの指標で多角的な分析が可能です。

視覚的に分かりやすく、3つの要素（ライン、シグナル、ヒストグラム）により、相場状況を直感的に把握できます。

遅行性が比較的少なく、単純移動平均よりも早くシグナルを発します。トレンド転換の初期段階を捉えやすくなります。

パラメータが標準化されており（12-26-9）、多くのトレーダーが同じ設定を使用するため、自己実現的な効果が期待できます。

注意点- リスク

レンジ相場では頻繁にだましのシグナルが発生します。トレンドの有無を事前に確認する必要があります。

急激な価格変動には対応が遅れることがあります。ニュースによる急変動時は機能しない場合があります。

ゼロライン付近での横ばいが続く場合、明確なシグナルが出にくくなります。他の指標との併用が推奨されます。

パラメータの最適化により結果が大きく変わりますが、過度な最適化はカーブフィッティングのリスクがあります。

関連用語との違い

RSIは、買われ過ぎ- 売られ過ぎを示すオシレーターで、MACDはトレンドフォロー型の指標です。

ストキャスティクスは、価格の位置を示す指標で、MACDは移動平均の差を利用した指標です。

移動平均線クロスは、価格の移動平均を直接比較しますが、MACDは移動平均の差を分析します。

実務ポイント- 事例

原油市場では、週足MACDのゴールデンクロスが中期的な上昇トレンドの開始シグナルとして機能することが多く、ポジション構築の判断材料となります。

金市場では、月足MACDのダイバージェンスが長期的なトレンド転換を示唆することがあり、大口投資家の注目を集めます。

農産物市場では、作付けから収穫までのサイクルに合わせて、日足と週足のMACDを併用した分析が行われています。

商品先物取引におけるMACDの活用は、トレンドの方向性と強さを同時に判断できる優れた分析手法として、幅広く支持されています。