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Evaluated market price
査定価格(Assessed Price)とは、価格評価機関(PRA:Price Reporting Agency)が市場情報を収集・分析して算出する、商品の評価価格です。実際の取引価格、売買気配、市場参加者からの情報などを総合的に判断し、その時点での公正な市場価値を表す価格として算出されます。現物取引、長期契約、金融派生商品の価格設定において基準価格として広く利用されており、商品市場の透明性向上と効率的な価格形成において重要な役割を果たしています。
査定価格の概念は、20世紀初頭の石油業界で始まりました。当時の石油取引は相対取引が中心で、価格情報が不透明でした。1909年にPlatts社の前身が石油価格の情報収集を開始し、業界関係者に価格情報を提供するようになったことが査定価格の起源とされています。
第二次世界大戦後の石油需要拡大とともに、統一的な価格指標の必要性が高まりました。1970年代のオイルショックを機に、石油価格の透明性向上が国際的な課題となり、査定価格の重要性が大幅に高まりました。その後、石油以外の商品分野でも査定価格の仕組みが導入され、現在では金属、化学品、農産物など幅広い分野で活用されています。
査定価格の算出には複数の手法が組み合わせて使用されます。最も基本的なのは「取引価格ベース査定」で、実際に成立した取引価格を収集し、取引量、取引時期、取引条件などを考慮して代表的な価格水準を特定します。複数の取引がある場合は、加重平均や中央値などの統計手法を用いて査定価格を算出します。
「気配価格ベース査定」では、売り手の提示価格(オファー)と買い手の希望価格(ビッド)を収集し、理論的な取引価格を推定します。ビッド・オファー・スプレッドの中央値を査定価格とすることが一般的ですが、市場の流動性や需給バランスを考慮して調整される場合もあります。
「指標連動査定」では、関連商品や近隣地域の価格を基準として、品質差、地域差、輸送費、税金などを調整して価格を算出します。新しい商品や取引量の少ない商品の査定に用いられることが多く、既存の査定価格との整合性を保つ重要な手法となっています。
査定価格の算出には、幅広い市場参加者からの情報収集が不可欠です。石油会社、商社、製造業者、流通業者、金融機関などから、取引価格、提示価格、在庫状況、需給見通し、市場動向などの情報を継続的に収集します。
情報収集は主に専門アナリストが電話やメールを通じて行います。市場参加者との日常的なコミュニケーションにより、単なる価格情報だけでなく、市場の背景にある需給要因や将来見通しなども把握します。情報提供者の匿名性は厳格に保護され、公正で偏りのない情報収集が実現されています。
収集された情報は、複数のアナリストが独立して分析・検証します。異常値の除外、複数情報源での確認、過去のトレンドとの整合性チェックなどを経て、最終的な査定価格が決定されます。
石油・エネルギー分野では、Platts社の「Platts Dated Brent」が北海ブレント原油の国際指標価格として機能しています。また、「Platts Singapore」は東南アジア市場の石油製品価格の基準となっています。これらの査定価格は、世界の原油・石油製品取引において広く参照されています。
化学品分野では、ICIS社の査定価格が業界標準として認知されています。プラスチック原料、化学品中間体、特殊化学品など1,500種類以上の化学製品について査定価格が算出され、「ICIS価格」として現物取引や長期契約に利用されています。
金属分野では、Fastmarkets社(旧Metal Bulletin社)の「MB価格」が代表的です。鉄鋼原料、非鉄金属、貴金属、レアメタルなど幅広い金属製品の査定価格を提供しており、現物取引の価格設定に広く活用されています。
査定価格は業界標準のベンチマーク価格として機能します。現物取引では、「Platts価格プラス○○ドル」「ICIS価格マイナス○○円」といった形で、査定価格を基準として実際の取引価格を決定することが一般的です。品質差、地域差、取引条件の違いなどは、査定価格に対するプレミアムやディスカウントとして表現されます。
長期供給契約では、査定価格の平均値を契約価格の改定基準として使用します。月次平均、四半期平均などを算出し、定期的に契約価格を調整する仕組みが広く採用されています。この方式により、市場価格の変動を契約価格に適切に反映させることができます。
金融派生商品では、査定価格が決済価格として使用されます。商品先物、オプション、スワップなどの最終決済において、査定価格が基準価格となることが多く、金融市場と現物市場を結ぶ重要な機能を果たしています。
査定価格の透明性と信頼性は、市場参加者の信頼を得るために不可欠です。主要な価格評価機関は、査定方法論を詳細に公表し、定期的な見直しも実施しています。査定に使用した情報の概要、市場動向の分析、査定価格の変動要因なども併せて公表し、査定の根拠を明確にしています。
国際証券監督者機構(IOSCO)が策定した「Oil Price Reporting Agencies」に関する原則では、独立性の確保、利益相反の回避、透明性の向上、説明責任の履行などが求められており、主要な価格評価機関はこれらの原則に準拠した運営を行っています。
査定価格は商品市場の価格形成に大きな影響を与えます。査定価格の上昇は、それを基準とする現物取引や長期契約の価格上昇要因となり、市場全体に波及します。逆に査定価格の下落は、市場価格の下落要因となります。
このため、価格評価機関の査定方法変更や新しい査定項目の追加は、市場に大きな影響を与える可能性があります。重要な変更を行う際は、事前に市場参加者との協議を十分に行い、適切な移行期間を設けることが求められます。
査定価格には一定の限界もあります。市場の流動性が低い場合、十分な取引情報が得られず、査定の精度が低下する可能性があります。また、市場参加者の寡占化により、特定の参加者の影響が過大になるリスクもあります。
情報の非対称性も課題の一つです。大手企業は豊富な市場情報を持つ一方、中小企業は限られた情報しか持たないため、査定価格に対する理解や活用能力に差が生じることがあります。
近年、査定価格に対する規制・監督が強化されています。欧州では金融商品市場指令(MiFID II)により、ベンチマーク価格を提供する機関に対する規制が強化されました。米国では商品先物取引委員会(CFTC)が価格評価機関の監督を行っています。
これらの規制強化により、査定価格の信頼性と透明性は向上していますが、同時に価格評価機関の運営コストも増加しており、査定価格の利用料金にも影響を与えています。
デジタル技術の発達により、査定価格の算出プロセスも変化しています。人工知能を活用した価格分析、ブロックチェーン技術による情報の真正性確保、リアルタイムデータの活用などが進められています。
これらの技術革新により、査定価格の精度向上と迅速な価格提供が可能になっていますが、従来の人的ネットワークに基づく情報収集との適切なバランスを保つことが重要な課題となっています。
査定価格は商品市場の基盤となる重要な価格情報であり、その信頼性と透明性の向上に向けた取り組みが継続されています。
固定価格
契約期間中、価格が一定に固定される価格設定方法。価格変動リスクを回避でき、予算計画が立てやすい利点があります。インフレ期には買い手有利、デフレ期には売り手有利となるため、市場見通しに基づく交渉が重要です。
変動価格
市場価格やインデックスに連動して変動する価格設定方法。原油のスポット価格、LME金属価格などを基準に、定期的に価格が改定されます。市場実勢を反映できる反面、価格変動リスクを負うことになります。
フォーミュラ価格
事前に合意した計算式により価格を決定する方法。基準価格にプレミアムやディスカウント、輸送費、品質調整などを加味します。長期契約で多用され、透明性が高く、市場変動と契約の安定性のバランスを取ることができます。
指数連動価格
商品指数や価格指標に連動して自動的に調整される価格。S&P GSCI、Platts価格、CPI などを基準とし、価格改定の透明性と客観性を確保できます。天然ガスの原油価格連動など、異なる商品間の連動も行われます。
スポット価格(直物価格)
商品や金融商品を即時または短期間内に受け渡す現物取引の価格。先物価格と対比される最も基本的な価格概念で、現在の需給バランスを直接反映します。原油、金属、農産物など各商品市場で日々形成されています。
ビッドプライス(買値)
市場で買い手が特定の資産を購入してもよいと提示している価格水準のことです。「買値」や「買い気配値」と同義です。売り手が提示するアスクプライス(売値)と対になります。
清算値(決済価格)
主に先物取引やオプション取引において、取引所が毎日の取引終了後に、値洗い(時価評価)や証拠金の計算、最終的な決済を行うために公式に決定・発表する価格のことです。
始値(寄り付き)
取引所の取引時間開始後、または特定の取引セッションの開始時に、最初に成立した取引の価格のことです。「寄り付き値段」とも呼ばれます。その日の取引の起点となる価格です。