デルタノーマル法(Delta-Normal Method)は、線形近似(デルタ)と正規分布仮定を用いるVaR計算手法で、分散共分散法の別名です。商品取引では計算の簡便性から日次リスク管理に広く使用されますが、非線形リスクには限界があります。
デルタノーマル法(Delta-Normal Method)は、分散共分散法の別称で、ポートフォリオ価値の変化を原資産価格変化に対する線形近似(デルタ)で表現し、価格変化が正規分布に従うと仮定してVaRを計算する手法です。「デルタ」は感応度を、「ノーマル」は正規分布を意味します。この手法は、ポートフォリオ価値の変化をΔP ≈ Σδ_i × ΔS_iで近似し、δ_iは各リスクファクターに対する感応度です。商品取引では、先物、スワップ等の線形商品のリスク評価に広く使用され、計算の簡便性から日次リスク管理の標準的手法となっています。
デルタは、原資産価格の単位変化に対するポートフォリオ価値の変化率を表します。商品先物では、デルタは通常1(または契約サイズ)となります。オプションでは、デルタはBlack-Scholesモデル等から算出され、0から1(コール)または-1から0(プット)の値を取ります。商品スワップでは、各期間のキャッシュフローを現在価値に割り引いたデルタを計算します。複数商品のポートフォリオでは、デルタベクトルを構築し、各商品価格変化への総合的な感応度を把握します。
デルタノーマル法の核心は、リスクファクターの変化が多変量正規分布に従うという仮定です。各商品の価格変化率から分散(ボラティリティの2乗)を推定し、商品間の相関係数と組み合わせて分散共分散行列Σを構築します。ポートフォリオの分散は、σ_p^2 = δ^T Σ δで計算され、δはデルタベクトルです。この正規性仮定により、VaRは解析的に計算でき、信頼水準に応じた分位点を用いて、VaR = z_α × σ_p × √T × Vとなります。
商品取引においてデルタノーマル法は実用的な利点があります。計算速度が速く、数千の商品ポジションでも瞬時にVaRを算出できます。リスク要因分解が容易で、どの商品がリスクに寄与しているか明確に把握できます。増分VaR、限界VaRの計算も簡単で、新規取引の影響を即座に評価できます。また、感応度ベースのアプローチにより、ヘッジ効果の定量化やヘッジ比率の最適化にも活用できます。システム実装も straightforwardで、既存のリスク管理システムに容易に統合できます。
デルタノーマル法の最大の弱点は、非線形商品への対応です。オプションのガンマ(デルタの変化率)効果を無視するため、大きな価格変動時には誤差が拡大します。特に、アット- ザ- マネー近辺のオプションや、満期が近いオプションでは、線形近似の誤差が顕著になります。エキゾチックオプション、バリアオプション、デジタルオプション等では、不連続なペイオフにより近似精度が著しく低下します。この問題に対処するため、デルタ-ガンマ法やデルタ-ガンマ-ベガ法等の高次近似が開発されています。
デルタノーマル法の精度は、パラメータ推定の質に大きく依存します。ボラティリティ推定では、ヒストリカルボラティリティ、EWMA、GARCH等の手法が用いられます。相関推定では、ピアソン相関、ランク相関、動的条件付き相関(DCC)等が選択されます。推定期間は通常250-500営業日ですが、市場環境により調整が必要です。パラメータの更新頻度も重要で、日次更新が理想的ですが、計算負荷とのバランスを考慮し、週次や月次更新も採用されます。
実務では、デルタノーマル法の限界を補う様々な工夫がなされています。ストレステストとの併用により、正規分布仮定の限界を補完します。部分的なモンテカルロ法の適用により、非線形商品のリスクをより正確に評価します。ボラティリティスマイルの考慮により、オプションリスクの精度を向上させます。また、コピュラを用いた依存構造のモデリング、レジーム切り替えモデルによる市場環境変化への対応等、高度な手法との組み合わせも進んでいます。リアルタイムリスク管理では、デルタノーマル法による迅速な概算と、詳細分析の使い分けが重要となります。
リスク指標
リスク指標(Risk Metrics)は、VaR、標準偏差、ベータ、シャープレシオ等のリスク測定値の総称です。商品取引では多面的なリスク評価により、価格変動、信用、流動性等の各種リスクを定量化し、統合的リスク管理の基盤となっています。
ヒストリカルシミュレーション
ヒストリカルシミュレーションは、過去の実際の市場データを用いてリスクを推定する非パラメトリック手法で、分布仮定を置かないのが特徴です。商品取引では価格変動の非正規性やファットテールを適切に捉え、現実的なリスク評価を実現します。
感度分析
感度分析は、特定の変数やパラメータの変化が結果に与える影響を体系的に分析する手法です。一つの変数を変化させて他の変数を固定した状態で、結果の変化を測定し、どの変数が結果に最も影響を与えるかを特定します。商品取引では、価格変動要因の影響度を評価し、リスク管理戦略の策定に重要な情報を提供します。
リスク分解
リスク分解は、ポートフォリオ全体のリスクを個別の要因や資産に分解し、リスクの源泉を特定する分析手法です。各要因がポートフォリオ全体のリスクにどの程度寄与しているかを定量的に測定し、リスク管理の優先順位を決定します。商品取引では、ポートフォリオのリスク構造の理解、効果的なリスク管理戦略の策定、新規取引の影響評価において重要な役割を果たします。
ストレステスト
ストレステストは、極端な市場状況や危機的シナリオ下でのポートフォリオ損失を評価する重要なリスク管理手法です。商品取引では原油ショック、金融危機、地政学リスクなどの異常事態における損失可能性を事前評価し、適切なリスク対策を策定します。
バックテスト
バックテストは、過去のデータを用いて取引戦略やリスクモデルの有効性を検証する重要な手法です。商品取引では戦略の収益性、リスク特性、市場環境への適応性を事前評価し、実運用前のモデル妥当性確認と継続的な改善に不可欠なプロセスです。
共分散
共分散は、2つの変数の共変動の程度を示す統計指標で、正の値は同方向、負の値は逆方向の関係を表します。商品取引では異なる商品間の価格連動性を分析し、ポートフォリオのリスク分散効果とヘッジ戦略の策定に重要な役割を果たします。
リスク要因分析
リスク要因分析(Risk Factor Analysis)は、ポートフォリオの総リスクを個別要因に分解し寄与度を測定する手法です。商品取引では価格変動要因の特定と、効果的なヘッジ戦略立案のため、市場・信用・流動性リスクの定量的把握に不可欠です。