基本概念

電力（Electricity）とは、電気エネルギーを商品として取引する際の呼称です。石油や天然ガスといった一次エネルギーを発電所で変換して生産される二次エネルギーであり、現代社会のあらゆる活動を支える基盤となっています。

電力の最大の特徴は「同時同量の原則」です。電気は大規模に貯蔵することが技術的- 経済的に困難なため、発電量と消費量を常に一致させる必要があります。この特性が電力市場の複雑さと重要性を生み出しています。

主な特徴

瞬時性
電力は生産と消費がほぼ同時に行われます。発電所で生産された電気は、光速に近い速度で送電網を通じて需要家に届けられ、即座に消費されます。

非貯蔵性
現在の技術では、電力を大規模かつ経済的に貯蔵することは困難です。蓄電池技術の発展により状況は改善しつつありますが、依然として需給バランスの即時調整が必要です。

品質の均一性
周波数（50Hzまたは60Hz）と電圧が厳密に管理された、均質な商品です。品質のばらつきは系統全体の安定性に影響するため、厳格な管理が行われています。

ネットワーク依存性
送電網という物理的インフラに完全に依存しており、この制約が地域間の価格差や市場の分断を生み出しています。

需要の変動性
季節、曜日、時間帯によって需要が大きく変動します。夏季の冷房需要や冬季の暖房需要、平日昼間のピーク需要など、予測可能な変動パターンが存在します。

電力は発電方式によって特性が異なり、それぞれが電力市場で異なる役割を果たしています。

火力発電は出力調整が比較的容易で、需要変動への対応力が高い電源です。天然ガス、石炭、石油を燃料とし、日本では電力供給の約7割を占めています。

原子力発電は一定出力での運転が経済的で、ベースロード電源として位置づけられます。燃料費が安く、二酸化炭素を排出しない特徴があります。

水力発電は起動停止が容易で、需給調整に優れています。揚水発電は余剰電力を位置エネルギーとして貯蔵する機能も持ちます。

再生可能エネルギー（太陽光、風力）は天候に依存する変動電源です。近年急速に拡大していますが、出力予測と調整力の確保が課題となっています。

電力市場は、取引のタイミングによって複数の市場に分かれています。

先渡市場では、数ヶ月から数年先の電力を取引します。価格変動リスクをヘッジする目的で利用されます。

**スポット市場（前日市場）**では、翌日受渡しの電力を30分単位で取引します。日本では日本卸電力取引所（JEPX）が運営し、電力取引の中心となっています。

時間前市場では、実需給の1時間前まで取引が可能で、需給計画の最終調整に利用されます。

需給調整市場では、系統運用者が周波数維持のための調整力を調達します。

電力価格は、限界費用に基づくメリットオーダー方式で決定されます。需要に応じて、運転費用の安い電源から順番に稼働させ、最後に稼働した電源の費用が市場価格となります。

価格に影響する要因として、燃料価格（天然ガス、石炭）、気象条件（気温、日照、風況）、設備の稼働状況（定期検査、トラブル）、系統制約（送電線の容量）などがあります。

電力取引は、電力会社、新電力会社、大口需要家、金融機関など、多様な参加者によって行われています。

小売電気事業者は、顧客の需要に合わせて電力を調達し、安定供給と収益確保のバランスを図ります。複数の市場を組み合わせた最適な調達戦略が求められます。

大規模工場などの大口需要家は、電力コストの削減と安定調達のため、直接市場から電力を購入することもあります。

金融機関やトレーディング会社は、価格変動を利用した裁定取引や、リスクヘッジ商品の提供を行っています。

電力市場は、脱炭素化、分散化、デジタル化という大きな変革期を迎えています。再生可能エネルギーの主力電源化、蓄電池技術の進展、需要側リソースの活用など、従来の集中型から分散型へのパラダイムシフトが進行しています。

電力システム改革により、発送電分離や小売全面自由化が実施され、市場メカニズムを通じた効率的な電力供給体制の構築が進められています。容量市場や需給調整市場など、新たな市場の創設により、電力の価値がより細分化されて取引されるようになっています。