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ICMM(国際鉱業金属評議会)は、世界の主要鉱業・金属会社が加盟する業界団体です。持続可能な開発原則に基づく責任ある鉱業慣行の普及を目指し、商品サプライチェーンの環境・社会基準向上において中心的役割を果たしています。
ICMM(International Council on Mining and Metals、国際鉱業金属評議会)は、世界の主要鉱業会社および金属会社が加盟する国際的な業界団体で、持続可能な開発と責任ある鉱業慣行の普及を通じて、グローバルな商品取引市場における環境- 社会基準の向上を牽引する重要な組織です。
ICMMの設立は、1990年代後半から2000年代初頭の鉱業業界における環境- 社会問題への関心の高まりを背景としています。当時、鉱山開発に伴う環境破壊、地域住民の人権侵害、労働安全問題などが国際的に注目され、投資家や消費者からの圧力が強まっていました。
2001年、世界の主要鉱業会社15社が中心となってICMMが設立されました。これは、業界全体で自主的な環境- 社会基準を策定し、持続可能な開発目標と調和した事業運営を実現する必要性が高まったためです。設立時から現在まで、本部をロンドンに置き、グローバルな標準化活動を展開しています。
ICMMには、世界最大級の鉱業- 金属会社約30社が加盟しており、これらの企業は全世界の金属生産量の約35%を占めています。加盟企業には、Anglo American、BHP、Rio Tinto、Vale、Glencore、Newmont、Barrick Goldなど、商品取引市場における主要なサプライヤーが含まれています。
加盟には厳格な基準があり、企業は年間売上高10億ドル以上、または全世界の特定金属生産量の2%以上のシェアを持つことが条件となります。また、地域- 商品協会も準加盟として参加し、業界全体での標準化を支援しています。
ICMMの中核となるのは「ICMM鉱業原則」で、以下の10原則から構成されています:
これらの原則は、加盟企業の全ての事業活動において遵守が義務付けられており、年次報告書での進捗報告と第三者検証が要求されています。
ICMMの活動は、グローバルな商品取引市場に多面的な影響を与えています。まず、ESG基準の標準化により、投資家やトレーダーにとってリスク評価の指標が明確化されました。ICMM原則に準拠していない企業は、投資回避や取引停止のリスクに直面する可能性があります。
商品取引会社の間では、ICMM加盟企業からの調達を優先する動きが広がっています。特に、自動車業界や電子機器業界などの最終消費者向け製品を扱う企業では、サプライチェーン全体の責任投資が求められるため、ICMM原則準拠の鉱物調達が重要な競争要因となっています。
また、金融機関による鉱業プロジェクトへの融資審査では、ICMM原則への準拠状況が重要な判断材料となっています。この結果、鉱業企業の資金調達コストや調達可能性に直接的な影響を与え、最終的には商品価格形成にも影響します。
ICMMは、責任ある鉱業技術の開発と普及においても主導的役割を果たしています。鉱滓ダム管理、水資源管理、廃棄物処理、炭素排出削減などの分野で技術基準を策定し、ベストプラクティスの共有を促進しています。
2019年に発生したブラジルの鉱滓ダム事故を受けて、ICMMは鉱滓ダム安全基準を大幅に強化しました。この新基準は、世界の鉱業操業において安全性向上をもたらし、同時に運営コストの増加を通じて商品価格にも影響を与えています。
近年、ICMMは気候変動対応において積極的な取り組みを展開しています。2021年に発表された「Climate Change Policy Position」では、パリ協定の目標達成に向けた業界の貢献方針を明確化しました。
加盟企業には、2030年までのネットゼロロードマップの策定と実行が求められており、これは低炭素技術への投資拡大、再生可能エネルギーの活用促進、エネルギー効率の改善などを含みます。これらの取り組みは、生産コストの変化を通じて銅、鉄鉱石、アルミニウムなどの商品価格に長期的な影響を与える可能性があります。
ICMMは、デジタル技術を活用した透明性向上と効率的な監視システムの構築にも取り組んでいます。
これらの技術革新は、商品の原産地証明、品質管理、ESGコンプライアンスの確認を効率化し、取引プロセスの信頼性と効率性を向上させています。
ICMMは、政府、NGO、地域社会、学術機関、国際機関などとの協働を重視しています。国連持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた業界の貢献方策を検討し、政策提言や共同プロジェクトを実施しています。
世界銀行、国際金融公社(IFC)、国連グローバル- コンパクトなどとのパートナーシップにより、新興国における責任ある鉱業開発の支援も行っています。これらの活動は、グローバルな鉱物資源の開発パターンと供給安定性に影響を与えています。
ICMMは、電気自動車の普及に伴うバッテリー金属需要の急増、再生可能エネルギー設備に必要な希少金属の供給確保、循環経済への移行など、新たな課題に直面しています。これらの課題への対応により、従来の鉱業モデルからより持続可能で効率的なモデルへの転換が期待されています。
また、ESG投資の拡大と規制強化により、ICMM原則の重要性はさらに高まると予想されます。これは、商品取引市場における価格プレミアムの拡大、取引条件の変化、新たなリスク管理手法の必要性などをもたらし、業界全体の競争構造に影響を与える可能性があります。
["国際鉱業金属評議会"]
炭素取引
Carbon Tradingは、温室効果ガスの排出権を取引する市場取引制度です。企業や国が排出削減目標を達成するため、排出権の売買を行い、環境負荷の低減と経済的効率性を両立させます。京都議定書やパリ協定に基づき、世界的に導入が進む環境配慮型の取引システムとなっています。
スコープ1排出量
企業が直接的に排出する温室効果ガス。自社の施設や車両からの排出が対象で、最も直接的に管理可能な排出量。温室効果ガス排出量の算定・報告における基本項目。
スコープ2排出量
企業が間接的に排出する温室効果ガス。電力や熱の購入による排出が対象で、エネルギー供給者との協力により削減可能。企業の気候変動対策における重要な管理項目。
炭素国境調整
炭素国境調整は、国内で炭素価格を課している国が、炭素価格を課していない国からの輸入品に対して炭素税を課す制度です。炭素リーケージを防ぎ、国際的な気候変動対策の公平性を確保します。商品取引では、国際貿易における環境規制と競争力の調整において重要な制度です。
環境・社会・ガバナンス
企業が長期的に成長するために配慮すべきとされる、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの側面を示す言葉です。ESGを重視する投資(ESG投資)が世界的に拡大しています。
ネットゼロ目標
ネットゼロ目標は、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的な排出量をゼロにすることを目指す環境目標です。気候変動対策の重要な要素として、企業や政府が設定し、持続可能な社会の実現を目指します。商品取引では、ESG投資とサステナビリティ管理において重要な環境目標です。