Carry-Over Stocks

基本概念

繰越在庫（Carry-Over Stocks）は、ある期間（通常は会計年度や収穫期）の終了時点で次期に持ち越される在庫を指します。特に農産物や季節商品において重要な概念で、供給の季節性と通年需要のギャップを埋める役割を果たします。適切な繰越在庫の維持は、価格安定化、供給継続性の確保、市場の需給調整において不可欠です。

農産物市場での重要性

農産物は収穫期が限定されているため、繰越在庫が年間供給の要となります。小麦、トウモロコシ、大豆などの穀物では、収穫から次の収穫までの端境期の供給を支えます。世界の主要穀物市場では、繰越在庫率（在庫/消費量比率）が価格形成の重要指標となっており、20%を下回ると価格上昇圧力が強まる傾向があります。

繰越在庫の機能

供給安定化：収穫期の供給集中を平準化し、年間を通じた安定供給を実現します。

価格安定化：需給ギャップを調整し、極端な価格変動を抑制します。

食料安全保障：不作や災害時のバッファーとして、食料供給の継続性を確保します。

投機的保有：価格上昇を見込んだ戦略的な在庫保有により、利益機会を追求します。

品質調整：ブレンディングにより、品質の均一化を図ります。

最適水準の決定要因

繰越在庫の最適水準は、複数の要因により決定されます。需要の安定性、供給の変動性、保管コスト、金利水準、価格見通し、政府の在庫政策などが影響します。FAO（国連食糧農業機関）は、世界の穀物在庫率を17-18%以上に維持することを食料安全保障の目安としています。

在庫コストと収益性

繰越在庫の保有には、保管費用、品質劣化損失、資金コスト、価格下落リスクなどのコストが発生します。一方で、価格上昇による評価益、需給逼迫時のプレミアム、安定供給による顧客信頼の獲得などの収益機会もあります。これらのバランスを考慮した経済的な在庫水準の決定が重要です。

政府介入と戦略備蓄

多くの国では、食料安全保障の観点から、政府が穀物の戦略備蓄を行っています。中国の穀物備蓄、日本の米備蓄、インドの緩衝在庫制度などが代表例です。これらの政府在庫は、市場価格の安定化と緊急時の供給確保を目的としており、民間の繰越在庫と合わせて全体の需給バランスを支えています。

情報開示と市場への影響

繰越在庫の水準は、市場価格に大きな影響を与えるため、正確な情報開示が重要です。USDA（米国農務省）の需給報告、IGC（国際穀物理事会）の在庫推計などは、世界の穀物市場の指標となっています。在庫水準の予想外の変化は、しばしば価格の急変動を引き起こします。

リスク管理

繰越在庫には、価格リスク、品質劣化リスク、陳腐化リスクなどが伴います。先物取引やオプションによる価格ヘッジ、適切な保管管理による品質維持、需要予測の精度向上による適正在庫の維持などが、リスク管理の重要な要素となります。

まとめ

繰越在庫は、季節性のある商品の通年供給を可能にし、市場の安定化に貢献する重要な機能を持ちます。特に農産物市場では、価格形成と食料安全保障の観点から注目される指標です。適切な繰越在庫の管理は、企業の収益性と社会的責任の両立において重要な経営課題となっています。