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先物契約において、原資産を現物で保有する場合にかかる総コストのことです。保管費用、保険料、金利コスト、減耗費などが含まれます。先物価格と現物価格の価格差(ベーシス)を決定する重要な要因となります。
コスト- オブ- キャリーは、先物取引において原資産を現物で保有する場合にかかる総コストを指す金融工学の中心概念です。保管費、保険料、金利コスト(資金調達費用)から、保有による収益(配当や利子など)を差し引いた純コストとして定義されます。この概念は、先物価格の理論値を決定し、現物と先物の適正な価格関係を説明する基礎理論となっています。
コスト- オブ- キャリーモデルは、1970年代に金融工学の発展とともに確立されました。ブラック- ショールズ- モデルの開発者の一人であるマイロン- ショールズらにより理論化され、デリバティブ価格理論の基礎となりました。このモデルにより、先物価格 = 現物価格 × e^(r×t) + 保管コスト - 便益、という関係式が導かれます。
商品取引市場では、コスト- オブ- キャリーは価格裁定の基準となります。理論価格と市場価格の乖離は、市場の非効率性や特殊な需給要因を示唆します。トレーダーはこの乖離を利用して、キャッシュアンドキャリー取引やリバースキャッシュアンドキャリー取引などの裁定戦略を実行します。
コスト- オブ- キャリーは、プラスにもマイナスにもなり得ます。商品市場では通常プラス(コンタンゴ)ですが、株式や通貨では配当や金利収入によりマイナス(バックワーデーション)になることもあります。
無裁定価格理論の中核を成します。完全市場では、コスト- オブ- キャリーに基づく理論価格に収斂し、裁定機会は即座に解消されます。
商品の特性により大きく異なります。貯蔵可能商品では明確に定義できますが、電力のような貯蔵不可能商品では適用が困難です。生鮮品では品質劣化を考慮する必要があります。
先物価格の評価において、コスト- オブ- キャリーモデルは基準となります。F = S × e^(r-y)t という基本式(Fは先物価格、Sは現物価格、rは無リスク金利、yは便益利回り、tは満期までの期間)により理論価格を算出します。
ベーシス取引では、コスト- オブ- キャリーからの乖離を収益源とします。理論値を上回る先物プレミアムがある場合、現物買い- 先物売りのポジションで利益を確保できます。
在庫管理では、コスト- オブ- キャリーと期待価格上昇を比較します。保有コストを上回る価格上昇が期待できない場合、在庫を削減すべきです。
オプション価格評価でも重要な要素です。配当や金利を考慮したコスト- オブ- キャリーは、オプションの理論価格に直接影響します。
市場の効率性評価が可能になります。理論価格からの乖離度により、市場の効率性や流動性を測定できます。
統合的なリスク管理が実現します。現物、先物、オプションを統一的な枠組みで評価し、ポートフォリオ全体のリスクを管理できます。
資金効率が向上します。コスト- オブ- キャリーを考慮することで、現物保有と先物ポジションの最適な組み合わせを決定できます。
価格発見機能が強化されます。理論価格を基準とすることで、市場価格の妥当性を評価し、将来価格の予測精度が向上します。
完全市場の仮定が現実と乖離します。取引コスト、税金、規制、資金調達の制約など、現実の市場には様々な摩擦が存在します。
コンビニエンスイールドの扱いが困難です。現物保有の利便性価値は定量化が難しく、モデルの精度を低下させます。
金利の期間構造を考慮する必要があります。単純なモデルでは一定金利を仮定しますが、実際には期間により金利が異なります。
信用リスクの影響があります。取引相手の信用リスクにより、実効的なコスト- オブ- キャリーが理論値から乖離します。
キャリーチャージは実務的な費用概念ですが、コスト- オブ- キャリーは理論的な価格決定モデルです。
保管コストは物理的費用のみですが、コスト- オブ- キャリーは金融費用も含む総合概念です。
ベーシスは価格差の観察値ですが、コスト- オブ- キャリーはその理論的説明要因です。
金市場では、コスト- オブ- キャリーが明確に観察されます。ロンドン金現物と COMEX金先物の価格差は、ドル金利と保管費をほぼ正確に反映します。中央銀行の金リースレートが低下すると、コスト- オブ- キャリーも低下し、先物カーブがフラット化します。
原油市場では、2014-2016年の供給過剰期に大規模なキャリートレードが発生しました。現物を購入して海上タンカーに保管し、先物を売却することで、コスト- オブ- キャリーを上回る利益を確保する取引が活発化しました。
株価指数先物では、配当落ちを考慮したコスト- オブ- キャリーモデルが使用されます。日経225先物では、3月と9月の配当集中期に、配当利回りを反映した価格調整が観察されます。最近では、マイナス金利環境下でのコスト- オブ- キャリーの扱いが、新たな理論的課題となっています。
総費用
企業が一定期間の生産活動において発生する全ての費用の合計額です。固定費と変動費を合算したもので、TC = FC + VCの式で表されます。生産量の増加に伴い、変動費部分が増加するため総費用も増加します。
費用便益分析
プロジェクトや投資案件の実施に伴う費用と便益(利益)を金銭的価値に換算して比較評価する手法です。便益が費用を上回る場合に実施の妥当性があると判断されます。公共事業の評価や企業の投資判断に広く用いられています。
変動費
生産量や売上高の増減に応じて変動する費用のことです。原材料費、直接労務費、販売手数料などが該当し、固定費と対をなす概念です。生産量がゼロの場合は変動費もゼロになる特徴があります。
保管コスト
商品を物理的に保管するために必要な費用のことです。倉庫料、温度管理費、セキュリティ費用などが含まれます。特に農産物やエネルギー商品の先物取引において、価格形成の重要な要素となります。
キャリーチャージ(保管費用)
コモディティ(商品)などの現物を、ある時点から将来の時点まで保有(キャリー)し続けるためにかかる費用のことです。主に金利、保管料、保険料などから構成され、先物価格形成に影響します。
コストカーブ
経済学や産業分析において、生産量と生産コストの関係を示すグラフ上の曲線の総称です。平均費用曲線や限界費用曲線などがあり、企業の生産決定や市場の供給構造分析に用いられます。