企業の生産量や売上高の増減に関わらず、一定期間において(比較的)一定額が発生する費用のことです。変動費と対比され、損益分岐点分析などで用いられます。
固定費は、企業の生産活動において生産量や売上高の変動に関わらず一定額が発生する費用です。事業を運営する上で必ず必要となる基礎的なコストであり、短期的には削減が困難という特徴を持ちます。賃料、正社員の給与、減価償却費、保険料などが代表例です。
固定費は企業の損益分岐点を決定する重要な要素となります。固定費が高い企業は、売上が低い時期には赤字になりやすい反面、売上が増加すると利益率が大きく改善します。この特性を「営業レバレッジ」と呼び、固定費の管理は経営戦略上きわめて重要な課題となっています。
商品取引業界においても、取引システムの維持費、オフィス賃料、専門人材の人件費など、多額の固定費が発生します。特に先物取引を扱う企業では、システムインフラへの投資が大きく、固定費比率が高くなる傾向があります。
固定費には以下のような特徴があります。まず、生産量がゼロでも発生する費用であることです。工場が稼働していなくても賃料は支払う必要があります。次に、短期的には削減が困難であることです。賃貸契約や雇用契約は簡単に変更できません。
また、固定費は規模の経済を生み出す源泉となります。生産量が増えれば単位当たりの固定費は低下し、製品の競争力が向上します。一方で、経営の柔軟性を低下させる要因にもなります。売上が減少しても費用を削減できないため、損失が拡大しやすくなります。
時間の経過とともに準変動費化する性質も持っています。長期的には、賃貸契約の見直しや人員調整により、ある程度の調整が可能になります。
固定費は経営分析において様々な形で活用されます。損益分岐点分析では、固定費を貢献利益率で割ることで、利益がゼロとなる売上高を算出します。この分析により、最低限必要な売上目標を明確にできます。
予算管理においては、固定費と変動費を分離して管理することで、より精密な利益計画を立てることができます。固定費は短期的に変動しないため、予算との差異分析が容易になります。
投資判断においても固定費の分析は重要です。新規設備投資により固定費が増加する場合、その投資が生み出す追加収益が固定費の増加分を上回るかを慎重に検討する必要があります。原価計算では、固定費を適切に製品に配賦することで、正確な製品原価を把握できます。
固定費の適切な管理により、企業は安定的な事業運営が可能になります。一定の固定費により必要な設備や人材を確保し、継続的なサービス提供ができます。
規模の経済効果により、生産量の増加に伴って単位当たりコストが低下し、価格競争力が向上します。また、固定費の存在により参入障壁が形成され、競合他社の新規参入を抑制する効果もあります。
長期契約による固定費は、価格の安定性をもたらします。市場価格が変動しても、固定費部分のコストは変わらないため、ある程度の予測可能性が確保されます。
固定費には様々なリスクが存在します。最大のリスクは、売上減少時の損失拡大です。リーマンショックやコロナ禍のような急激な需要減少時には、固定費の負担が企業経営を圧迫します。
過大な固定費は企業の財務柔軟性を低下させます。環境変化への対応が遅れ、機会損失につながる可能性があります。また、固定費の削減は従業員のモチベーション低下や品質低下を招く恐れがあるため、慎重な判断が必要です。
固定費の配賦方法によっては、製品原価が歪む可能性があります。不適切な配賦は誤った価格設定や商品ミックスの判断につながります。
固定費と変動費の違いは、生産量との連動性にあります。変動費は生産量に比例して増減しますが、固定費は一定です。ただし、準固定費や準変動費と呼ばれる中間的な性質を持つ費用も存在します。
直接費と間接費の分類とは異なる概念です。直接費- 間接費は製品との関連性による分類ですが、固定費- 変動費は生産量との関連性による分類です。固定費の中にも直接費と間接費の両方が含まれます。
サンクコスト(埋没費用)とも異なります。サンクコストは既に支出済みで回収不能な費用ですが、固定費は将来も継続的に発生する費用です。
商品取引業界では、固定費管理が収益性を大きく左右します。例えば、大手商社では本社ビルの賃料や専門トレーダーの人件費が巨額の固定費となっています。これらの企業は、固定費を賄うために一定以上の取引量を維持する必要があります。
製造業では、設備投資による減価償却費が大きな固定費となります。鉄鋼業や石油化学工業では、巨大な生産設備の固定費を回収するため、高い稼働率の維持が経営上の最重要課題となっています。
最近では、固定費の変動費化が経営トレンドとなっています。正社員から派遣社員への切り替え、自社設備からアウトソーシングへの移行、オフィスの縮小とリモートワークの導入などにより、固定費を削減し経営の柔軟性を高める企業が増えています。
総費用
企業が一定期間の生産活動において発生する全ての費用の合計額です。固定費と変動費を合算したもので、TC = FC + VCの式で表されます。生産量の増加に伴い、変動費部分が増加するため総費用も増加します。
費用便益分析
プロジェクトや投資案件の実施に伴う費用と便益(利益)を金銭的価値に換算して比較評価する手法です。便益が費用を上回る場合に実施の妥当性があると判断されます。公共事業の評価や企業の投資判断に広く用いられています。
変動費
生産量や売上高の増減に応じて変動する費用のことです。原材料費、直接労務費、販売手数料などが該当し、固定費と対をなす概念です。生産量がゼロの場合は変動費もゼロになる特徴があります。
保管コスト
商品を物理的に保管するために必要な費用のことです。倉庫料、温度管理費、セキュリティ費用などが含まれます。特に農産物やエネルギー商品の先物取引において、価格形成の重要な要素となります。
キャリーチャージ(保管費用)
コモディティ(商品)などの現物を、ある時点から将来の時点まで保有(キャリー)し続けるためにかかる費用のことです。主に金利、保管料、保険料などから構成され、先物価格形成に影響します。
運搬コスト
先物契約において、原資産を現物で保有する場合にかかる総コストのことです。保管費用、保険料、金利コスト、減耗費などが含まれます。先物価格と現物価格の価格差(ベーシス)を決定する重要な要因となります。
コストカーブ
経済学や産業分析において、生産量と生産コストの関係を示すグラフ上の曲線の総称です。平均費用曲線や限界費用曲線などがあり、企業の生産決定や市場の供給構造分析に用いられます。