基本概念

鉄系金属（Ferrous Metals）は、鉄を主要成分とする金属材料の総称です。英語の「Ferrous」は、ラテン語で鉄を意味する「Ferrum」に由来し、「フェラス- メタルズ」と読みます。鉄を含まない金属である非鉄金属（Non-Ferrous Metals）と対をなす分類です。

この分類が重要な理由は、鉄系金属が人類の文明発展に不可欠な材料だからです。「鉄器時代」という言葉があるように、鉄の利用は社会の発展段階を示す指標でもありました。現代でも、一国の鉄鋼生産量は工業化の水準を測る重要な指標となっています。

主な特徴

圧倒的な使用量
鉄系金属は世界で年間約20億トン生産され、全金属使用量の約95%を占めます。建設用の鉄筋コンクリート、自動車のボディ、船舶の船体など、大型構造物の主要材料として使用されています。高層ビル一棟で約5,000-10,000トンの鉄鋼が使用されるとされています。

炭素含有量による性質の変化
鉄に含まれる炭素の量により、材料特性が大きく変わります。炭素0.02%未満の純鉄は柔らかく、0.02-2.14%の鋼は強度と加工性のバランスが良く、2.14%以上の鋳鉄は硬いが脆い性質を持ちます。この特性を利用し、用途に応じた材料選択が可能です。

優れた加工性と強度
圧延、鍛造、溶接、切削など多様な加工方法に対応できます。また、熱処理により硬さや強度を調整できるため、釘のような小さな部品から橋梁のような巨大構造物まで製造可能です。引張強度は一般的な鋼で400-500MPa程度ですが、高張力鋼では1,000MPa以上も実現できます。

磁性材料としての特性
鉄は強磁性体であり、電磁石の芯材やモーターの材料として不可欠です。電力変圧器の鉄心には、年間数百万トンの電磁鋼板が使用されています。この磁性により、リサイクル時の分別も容易になります。

高いリサイクル率
鉄スクラップは電気炉で容易に再生できます。世界の鉄鋼生産の約30-40%はスクラップを原料としており、日本では建築物の鉄骨の約90%がリサイクルされています。エネルギー消費も新規製鉄の約1/4で済むため、環境負荷の低減にも貢献します。

建設業界での構造材利用
高層ビルや橋梁の骨組みには、H形鋼や鋼管が使用されます。東京スカイツリーには約36,000トンの鉄鋼が使用されたとされています。建設会社は鋼材価格の変動を考慮し、長期プロジェクトでは先物取引でヘッジすることもあります。

自動車産業での軽量化競争
自動車一台には約900-1,200kgの鉄鋼が使用されています。近年は高張力鋼板の採用により、強度を保ちながら約20-30%の軽量化を実現しています。自動車メーカーは鉄鋼メーカーと共同で新素材開発を進めています。

製造業での工具- 金型利用
工具鋼や金型用鋼は、他の材料を加工するための工具として使用されます。自動車部品のプレス金型一つで数トンの特殊鋼が使用され、数万回の使用に耐える必要があります。適切な熱処理により、硬度と靭性のバランスを最適化します。

鉄系金属の最大のメリットは、コストパフォーマンスの高さです。アルミニウムの約1/3、チタンの約1/50の価格で、多くの用途で十分な性能を発揮します。これにより、大規模インフラ整備が経済的に実現可能となっています。

技術的には、合金化や熱処理により幅広い特性を実現できる点が優れています。耐食性を高めたステンレス鋼、耐熱性を高めた耐熱鋼など、用途に応じた材料設計が可能です。

錆びやすさは鉄系金属の最大の弱点です。防錆処理なしでは、年間約0.1-0.2mmの速度で腐食が進行します。メッキ、塗装、合金化などの対策が必要で、メンテナンスコストがかかります。橋梁の維持管理費の約60%は防錆関連とされています。

原料価格の変動リスクも無視できません。鉄鉱石価格は2020年の約80ドル/トンから2021年には約230ドル/トンまで上昇しました。原料炭価格も同様に変動が激しく、鉄鋼メーカーの収益に大きく影響します。