読み込み中...
内部または外部の不正行為により損失が発生するリスクです。横領、相場操縦、インサイダー取引などが含まれます。
不正リスクとは、組織内外の関係者による故意の不正行為により、企業が経済的損失や信用失墜を被るリスクを指します。英語では「Fraud Risk」と表記され、「詐欺リスク」とも呼ばれます。従業員による横領、経営陣による粉飾決算、外部者による詐欺、サイバー犯罪など、多様な形態の不正行為が含まれます。オペレーショナルリスクの重要な構成要素として位置づけられ、金融機関や一般企業において重要な管理対象となっています。近年の
不正リスクの概念は、20世紀初頭の会計監査制度の発展とともに体系化されました。1929年の世界恐慌後、企業の財務報告の信頼性向上が求められ、不正防止の重要性が認識されました。2001年のエンロン事件、2002年のワールドコム事件を受けて、米国でサーベンス- オクスリー法が制定され、企業の内部統制強化が義務づけられました。日本でも2006年に金融商品取引法が施行され、内部統制報告制度(J-SOX)が導入されています。現在では、コンプライアンス体制の整備、内部監査機能の強化、ガバナンス体制の充実が企業経営の基本要件となっています。
故意性: 不正リスクは、過失や偶然ではなく、明確な意図を持った故意の行為により発生します。計画的で組織的な場合も多く、発見が困難な特徴があります。
隠蔽性: 不正行為者は発覚を避けるため、証拠隠滅や偽装工作を行います。通常の業務プロセスや監査手続きでは発見が困難な場合があります。
継続性: 一度始まった不正は、発覚を恐れて継続- 拡大する傾向があります。時間の経過とともに被害額が拡大し、組織への影響も深刻化します。
信頼関係の悪用: 組織内の信頼関係や権限を悪用して行われることが多く、被害の発見が遅れる要因となります。特に管理職による不正は影響が大きくなります。
多様性: 財務報告、資産の横領、汚職- 贈収賄、情報漏洩、サイバー犯罪など、多様な形態で発生し、対応策も複雑になります。
銀行の不正防止体制: 銀行では、顧客資金の横領、融資に関する不正、マネーロンダリングなどの防止が重要な課題となっています。厳格な職務分離、相互牽制体制、定期的な内部監査により不正の防止- 発見に努めています。現金取扱業務では複数人でのチェック体制、貸出業務では稟議制度と事後検証、システムアクセスログの監視などの対策を実施しています。疑わしい取引の監視システム(AML/CFT)により、マネーロンダリングやテロ資金供与の防止を図っています。
証券会社のコンプライアンス: 証券会社では、インサイダー取引、相場操縦、顧客資産の流用などの防止が重要です。情報管理体制の強化、売買審査システムの導入、顧客資産の分離保管により、不正行為の防止を図っています。従業員の個人取引については事前承認制とし、利益相反取引の防止に努めています。顧客情報の管理では、アクセス権限の厳格な管理、操作ログの監視により、情報漏洩や不正利用を防止しています。
保険会社の保険金詐欺対策: 保険会社では、保険金の不正請求が重要なリスクとなっています。医療保険では過剰診療や架空請求、自動車保険では事故の偽装、火災保険では放火などの不正請求に対応する必要があります。
商社の取引管理: 総合商社では、架空取引、価格操作、リベートの不正受領などのリスクがあります。取引先の実在性確認、価格の妥当性検証、利益相反取引の管理により、不正取引の防止を図っています。海外子会社では、現地の商慣行や法制度の違いを考慮した不正防止体制の構築が重要となります。定期的な内部監査、現地駐在員による管理強化、コンプライアンス研修の実施により、グループ全体での不正防止に取り組んでいます。
製造業の品質不正対策: 製造業では、品質データの改ざん、検査工程の省略、不適合品の出荷などの品質不正が重要なリスクとなっています。品質管理システムの独立性確保、検査データの自動記録、第三者による監査などにより、品質不正の防止を図っています。
不正リスクは以下のように分類されます:
資産横領: 現金、有価証券、商品、情報などの企業資産を不正に取得する行為です。経理担当者による現金横領、営業担当者による売上金着服、システム管理者による情報盗取などが含まれます。
財務報告不正: 財務諸表の意図的な虚偽記載により、企業の財政状態や経営成績を偽装する行為です。売上の水増し、費用の先送り、資産の過大計上などが典型例です。
汚職- 贈収賄: 取引先や公務員に対する不正な利益供与、または職務上の地位を利用した不正な利益受領です。入札談合、許認可取得のための贈賄などが含まれます。
情報漏洩: 企業の機密情報、顧客情報、個人情報を不正に外部に漏洩する行為です。競合他社への情報提供、個人的な利益のための情報売却などが含まれます。
サイバー不正: コンピューターシステムを悪用した不正行為です。不正アクセス、データ改ざん、システム破壊、ランサムウェア攻撃などが含まれます。
不正行為の発生には「不正のトライアングル」と呼ばれる3つの要因があります:
機会(Opportunity): 不正を実行できる環境や状況の存在です。内部統制の不備、監視体制の欠如、職務分離の不徹底などが機会を提供します。
動機- プレッシャー(Incentive/Pressure): 不正を行う理由や圧力です。個人的な金銭的困窮、業績プレッシャー、組織の過度な成果主義などが動機となります。
正当化(Rationalization): 不正行為を自分自身に正当化する心理的プロセスです。「一時的な借用」「会社への貢献に対する正当な報酬」などの理由付けが行われます。
不正リスクを軽減するための対策は以下の通りです:
内部統制の整備: 職務分離、承認プロセス、相互牽制などの内部統制制度を整備し、不正の機会を削減します。定期的な見直しと改善が重要です。
監視- 監査体制: 内部監査部門の独立性確保、外部監査人との連携、監査役- 監査委員会の機能強化により、不正の早期発見を図ります。
コンプライアンス体制: 行動規範の策定、コンプライアンス研修の実施、相談- 通報窓口の設置により、不正防止の企業文化を醸成します。
システム統制: アクセス権限の管理、操作ログの監視、システム監査により、システムを通じた不正を防止します。
人事管理: 採用時の身元調査、定期的なローテーション、休暇取得の義務化により、不正の機会を限定します。
不正の発見には以下の手法が使用されます:
内部通報: 従業員、取引先、顧客からの通報により不正が発見される場合が最も多く、通報制度の整備が重要です。
内部監査: 定期的な内部監査により、業務プロセスの異常や不正の兆候を発見します。リスクベース監査の導入により効率的な監査を実施します。
データ分析: 取引データの異常検知、統計的分析により不正の兆候を発見します。
外部監査: 独立した外部監査人による監査により、客観的な視点から不正を発見します。
偶然の発見: 日常業務の中で偶然に不正が発見される場合もあり、従業員の不正に対する感度向上が重要です。
不正が発覚した場合の法的対応は以下の通りです:
内部調査: 事実関係の調査、証拠の保全、影響範囲の特定を行います。外部専門家の活用も重要です。
刑事告発: 重大な不正については警察への告発を検討します。組織の姿勢を明確にする効果があります。
民事責任: 損害賠償請求、懲戒処分により、不正行為者の責任を追及します。
行政対応: 監督官庁への報告、改善計画の策定- 実施により、再発防止を図ります。
開示対応: 上場企業では、重要な不正について適時開示が必要になる場合があります。
業界により不正リスクの特徴は異なります:
金融業: 顧客資金の取扱いが多く、横領、詐欺、マネーロンダリングなどのリスクが高くなります。
製造業: 品質データの改ざん、安全基準の違反、環境規制の違反などが重要なリスクとなります。
小売業: 商品の横領、レジ不正、返品詐欺などが典型的なリスクです。
IT業: 情報漏洩、システムの不正利用、知的財産の盗用などが重要なリスクとなります。
建設業: 談合、贈収賄、手抜き工事などが業界特有のリスクとして存在します。
グローバル化: 国際的な事業展開における各国の法制度や商慣行の違いを考慮した不正防止体制の構築が重要です。
リモートワーク: 在宅勤務の普及により、従来の監視- 統制手法の見直しが必要になっています。
ESG経営: 環境- 社会- ガバナンス要因を考慮した不正防止体制の構築が求められています。
不正リスクは、組織の存続と社会的信用に関わる重要なリスクです。適切な防止体制の構築により、健全な企業経営と社会の信頼確保に貢献することが求められています。技術の進歩と社会環境の変化に対応した継続的な改善が今後も重要な課題となっています。
インシデント報告
組織内で発生した、または発生しそうになった望ましくない事象(インシデント:事故、不正、システム障害、ヒヤリハット等)に関する情報を、定められた手順に従って報告・記録するプロセスです。リスク管理や業務改善に繋げます。
納期リスク
契約で定められた納期までに、商品やサービスが買い手に引き渡されない(遅延する)可能性(リスク)のことです。デリバリーリスクの一種であり、生産計画や販売機会に影響を与えます。