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Lifecycle Emissions(ライフサイクル排出量)は、製品・サービスの原材料調達から廃棄までの全段階で排出される温室効果ガスの総量です。商品取引では製品の真の環境負荷を評価する指標として、調達戦略、価格設定、規制対応において不可欠な情報となっています。
Lifecycle Emissions(ライフサイクル排出量)は、製品、サービス、またはプロジェクトが「ゆりかごから墓場まで」(Cradle to Grave)、すなわち原材料の採掘- 調達から製造、輸送、使用、そして最終的な廃棄- リサイクルに至るまでの全ライフサイクル段階において、直接的- 間接的に排出される温室効果ガス(GHG)の総量を指します。
この概念は、1990年代のライフサイクルアセスメント(LCA)手法の発展とともに確立され、ISO 14040シリーズとして国際標準化されました。商品取引業界では、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入、サプライチェーン排出量開示要求の強化により、ライフサイクル排出量の正確な把握と管理が競争力を左右する重要要素となっています。
原材料採取- 調達段階
鉱物採掘、農産物栽培、森林伐採などの一次資源獲得過程での排出を含みます。商品取引では、鉄鉱石採掘で1トン当たり50-200kgCO2、ボーキサイト採掘で100-300kgCO2などの排出が発生します。土地利用変化による炭素放出も重要な要素となります。
製造- 加工段階
原材料を製品に変換する過程での排出です。鉄鋼製造では1トン当たり2-2.5トンCO2、アルミニウム精錬では10-15トンCO2、セメント製造では0.8-1トンCO2の排出が典型的です。エネルギー源の選択により大きく変動します。
輸送- 流通段階
原材料輸送、製品配送、販売までの物流過程での排出です。海上輸送で10-50gCO2/トン- km、陸上輸送で50-150gCO2/トン- km、航空輸送で500-1500gCO2/トン- kmの排出が発生します。商品取引では輸送距離と手段の最適化が重要となります。
使用段階
製品の使用期間中の排出です。エネルギー消費製品では全ライフサイクル排出の50-90%を占める場合があります。自動車では走行時排出、建築物では冷暖房エネルギー、電子機器では待機電力などが主要因となります。
廃棄- リサイクル段階
製品寿命後の処理過程での排出です。埋立処分でのメタン発生、焼却処理でのCO2排出、リサイクル処理でのエネルギー消費などが含まれます。リサイクルによる一次材料代替効果は負の排出として計上される場合があります。
エネルギー商品の環境評価
原油のライフサイクル排出量は、油田タイプにより大きく異なります。在来型原油で80-100gCO2/MJ、オイルサンドで100-140gCO2/MJ、シェールオイルで90-120gCO2/MJとなります。LNGでは液化- 再ガス化プロセスを含めて60-80gCO2/MJです。
商社は、調達先の選択、輸送ルートの最適化、低炭素技術への投資により、取扱商品のライフサイクル排出量削減を進めています。Shell、BP、三菱商事などは、2030年までに取扱エネルギー商品の排出強度を20-30%削減する目標を設定しています。
金属- 鉱物商品の脱炭素化
アルミニウムのライフサイクル排出量は、電力源により劇的に変化します。石炭火力電源では1トン当たり20トンCO2、水力電源では4トンCO2となります。商社は、低炭素アルミニウムの調達拡大、グリーン電力による精錬への投資を進めています。
鉄鋼では、高炉製鉄で2.3トンCO2/トン、電炉製鋼で0.5トンCO2/トン、将来の水素還元製鉄で0.1トンCO2/トンと、技術革新によるライフサイクル排出量削減が期待されています。
農産物- 食品の持続可能性評価
牛肉のライフサイクル排出量は20-30kgCO2/kg、豚肉で5-7kgCO2/kg、鶏肉で2-4kgCO2/kgです。飼料生産、土地利用変化、メタン排出が主要因となります。大豆では森林開発を伴う場合17kgCO2/kg、既存農地では2kgCO2/kgと大きな差があります。
カーギル、ADM、ブンゲなどの穀物メジャーは、サプライチェーン全体でのライフサイクル排出量削減に取り組み、森林破壊ゼロ、再生農業の推進を進めています。
ISO 14040/14044準拠
国際標準化機構のLCA規格に基づき、目的と範囲の設定、インベントリ分析、影響評価、結果の解釈の4段階で実施します。商品取引では、製品カテゴリールール(PCR)により、商品別の算定方法が標準化されています。
GHGプロトコル製品基準
世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)が策定した基準により、企業間での比較可能性が確保されています。スコープ3カテゴリー1(購入製品)の算定において重要な役割を果たします。
データベースと算定ツール
ecoinvent、GaBi、SimaProなどの商用データベースにより、数万種類の材料- プロセスの排出係数が提供されています。商社は独自のデータ収集と組み合わせて、取扱商品の正確なライフサイクル排出量を算定しています。
炭素国境調整メカニズム(CBAM)
EUのCBAMでは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料などの輸入品のライフサイクル排出量申告が義務化されます。2027年の本格導入後は、EU域内製品との排出量差分に応じた炭素価格の支払いが必要となります。
商社は、サプライヤーからの一次データ収集、第三者検証、デジタルプラットフォームの構築により、CBAM対応体制を整備しています。
製品環境フットプリント(PEF)
EU委員会が推進するPEF制度では、16の環境影響カテゴリーでライフサイクル評価を実施します。IBM Food Trust、VeChainなどのプラットフォームが実用化されています。10-30%のライフサイクル排出量削減が実現可能とされています。推計値から実測値への移行により、データの信頼性が大幅に向上しています。
低炭素商品ポートフォリオ
商社は、ライフサイクル排出量を基準とした商品ポートフォリオの再構築を進めています。高排出商品から低排出商品へのシフト、炭素除去クレジットとの組み合わせにより、ポートフォリオ全体での排出量削減を実現しています。
グリーンプレミアムの価格設定
ライフサイクル排出量の低い商品に対するプレミアム価格設定により、環境価値の収益化を図っています。低炭素鉄鋼で10-30%、グリーンアンモニアで50-100%のプレミアムが形成されています。
サプライヤーエンゲージメント
サプライヤーとの協働により、ライフサイクル排出量削減を推進しています。技術支援、共同投資、長期契約によるインセンティブ提供により、サプライチェーン全体での脱炭素化を加速しています。
データの可用性と品質
特に新興国でのサプライチェーンにおいて、信頼性の高い一次データの収集が困難です。衛星監視、リモートセンシング、現地パートナーシップにより、データギャップの解消が進められています。
算定方法の標準化
業界、地域、認証機関により算定方法が異なり、比較可能性が限定的です。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)による統一基準策定が期待されています。
動的ライフサイクル評価
技術進歩、エネルギー転換、気候変動影響を反映した動的なライフサイクル評価手法の開発が進んでいます。将来シナリオ分析により、長期的な投資判断の精度向上が図られています。
ライフサイクル排出量は、商品取引企業にとって、環境規制対応、顧客要求充足、競争優位確立において不可欠な管理指標となっています。正確な算定と戦略的活用により、持続可能な商品取引ビジネスの構築が可能となります。
["製品カーボンフットプリント","PCF","ライフサイクルGHG排出量"]
炭素取引
Carbon Tradingは、温室効果ガスの排出権を取引する市場取引制度です。企業や国が排出削減目標を達成するため、排出権の売買を行い、環境負荷の低減と経済的効率性を両立させます。京都議定書やパリ協定に基づき、世界的に導入が進む環境配慮型の取引システムとなっています。
スコープ1排出量
企業が直接的に排出する温室効果ガス。自社の施設や車両からの排出が対象で、最も直接的に管理可能な排出量。温室効果ガス排出量の算定・報告における基本項目。
スコープ2排出量
企業が間接的に排出する温室効果ガス。電力や熱の購入による排出が対象で、エネルギー供給者との協力により削減可能。企業の気候変動対策における重要な管理項目。
炭素国境調整
炭素国境調整は、国内で炭素価格を課している国が、炭素価格を課していない国からの輸入品に対して炭素税を課す制度です。炭素リーケージを防ぎ、国際的な気候変動対策の公平性を確保します。商品取引では、国際貿易における環境規制と競争力の調整において重要な制度です。
環境・社会・ガバナンス
企業が長期的に成長するために配慮すべきとされる、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの側面を示す言葉です。ESGを重視する投資(ESG投資)が世界的に拡大しています。
ネットゼロ目標
ネットゼロ目標は、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質的な排出量をゼロにすることを目指す環境目標です。気候変動対策の重要な要素として、企業や政府が設定し、持続可能な社会の実現を目指します。商品取引では、ESG投資とサステナビリティ管理において重要な環境目標です。
ICMM(国際鉱業金属評議会)
ICMM(国際鉱業金属評議会)は、世界の主要鉱業・金属会社が加盟する業界団体です。持続可能な開発原則に基づく責任ある鉱業慣行の普及を目指し、商品サプライチェーンの環境・社会基準向上において中心的役割を果たしています。