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2010年に合意された国際的な銀行規制の枠組み。自己資本比率規制の強化、レバレッジ比率規制、流動性規制などを含む包括的な規制パッケージ。
バーゼルIII(Basel III)は、2010年に合意された国際的な銀行規制の枠組みで、2008年の金融危機の教訓を踏まえ、銀行システムの安定性と強靭性を高めることを目的としています。コモディティ取引に従事する金融機関にとって、自己資本要件の強化、レバレッジ規制、流動性規制などが取引戦略とリスク管理に大きな影響を与えています。
バーゼルIIIは、リーマンショックで露呈した金融システムの脆弱性に対処するため策定されました。過度なレバレッジ、不十分な流動性バッファー、プロシクリカル(景気増幅的)な規制の問題を解決し、個別金融機関の健全性(ミクロプルーデンス)とシステム全体の安定性(マクロプルーデンス)の両方を強化することを目指しています。
2013年から段階的に導入が開始され、当初2019年の完全実施を目指していましたが、各国の実情やCOVID-19の影響により、実施時期は延長- 調整されています。最終化されたバーゼルIII(バーゼル3.5とも呼ばれる)は、2023年から段階的に実施されています。
自己資本の質と量の強化
普通株式等Tier1(CET1)比率を4.5%以上、Tier1比率を6%以上、総自己資本比率を8%以上とする最低要件が設定されました。さらに、資本保全バッファー(2.5%)とカウンターシクリカル- バッファー(0-2.5%)が追加され、実質的なCET1要件は7-9.5%となります。
レバレッジ比率規制
リスクウェイトに依存しない、単純なレバレッジ比率(Tier1資本/総エクスポージャー)3%以上の要件が導入されました。これにより、リスクウェイトの操作による過度なレバレッジが抑制されます。
流動性規制
コモディティ- ファイナンスの取り扱い
貿易金融やコモディティ- ファイナンスは、実体経済への重要性から、特別な配慮がなされています。短期の自己清算型取引には、優遇的なリスクウェイトが適用されます。ただし、投機的な取引には高いリスクウェイトが課されます。
CVA(信用評価調整)リスク
デリバティブ取引の counterparty credit risk に対する資本賦課が強化されました。標準的手法とBA-CVA(基礎的手法)が用意され、コモディティ- デリバティブも対象となります。中央清算機関(CCP)経由の取引には、低いリスクウェイトが適用されるため、取引所取引へのシフトが進んでいます。
市場リスクの新たな枠組み(FRTB)
トレーディング勘定の抜本的見直し(Fundamental Review of the Trading Book)により、コモディティ- リスクの計測方法が変更されました。感応度ベース手法(SBA)では、デルタ、ベガ、カーバチュアリスクを個別に計測します。内部モデル手法の承認要件も厳格化されています。
グローバルにシステム上重要な銀行は、追加の資本バッファー(1-3.5%)が要求されます。さらに、総損失吸収力(TLAC)要件により、リスクアセットの16-18%以上の損失吸収力のある負債の保有が義務付けられています。これらの銀行のコモディティ部門は、より厳格な管理下に置かれます。
資本配賦の最適化
限られた資本を効率的に配分するため、リスク調整後収益(RAROC)に基づく事業評価が重要となりました。コモディティ取引部門は、他部門との資本競争において、高い収益性を示す必要があります。
ビジネスモデルの変化
自己勘定取引から顧客ビジネスへのシフト、現物取引からデリバティブへの移行、バランスシート型ビジネスからフロー型ビジネスへの転換が進んでいます。
リスク管理の高度化
規制対応のため、リスク計測- 管理システムの高度化が必要となりました。ストレステスト、シナリオ分析、リスクアペタイト- フレームワークの導入が標準化されています。
欧州(CRR/CRD)
EU では Capital Requirements Regulation/Directive として法制化され、2014年から段階的に実施されています。欧州銀行監督機構(EBA)が詳細なガイドラインを策定しています。
米国
大規模銀行には、より厳格な Enhanced Supplementary Leverage Ratio やストレステスト(CCAR)が適用されています。ボルカールールによる自己勘定取引の禁止も、コモディティ取引に影響を与えています。
日本
金融庁が国内基準行と国際統一基準行に分けて規制を適用しています。3メガバンクは G-SIBs として追加要件の対象となっています。
気候変動リスクの統合
環境リスクを銀行規制に統合する動きが加速しています。化石燃料関連エクスポージャーへの追加資本賦課やストレステストが検討されています。
デジタル資産への対応
暗号資産やトークン化されたコモディティの取り扱いについて、バーゼル委員会が新たな枠組みを策定中です。
規制の複雑性と負担
重層的な規制要件により、コンプライアンスコストが増大しています。中小金融機関では、規制対応が経営課題となっています。
バーゼルIIIは、金融システムの安定性向上に寄与する一方、コモディティ取引を含む銀行業務に大きな変革を促しています。規制要件を満たしながら、収益性を維持するビジネスモデルの構築が、金融機関の競争力を左右する重要な要素となっています。
資本要件
資本要件は、金融機関が事業を営むために最低限必要とされる資本の水準を定めた規制です。バーゼル規制に基づき、リスク資産の規模に応じて必要な資本を算出し、金融機関の健全性を確保します。商品取引では、金融機関の信用力評価と取引リスク管理において重要な指標です。
資本バッファー
資本バッファーは、金融機関が規制要件を上回る資本を保有することで、経済的ショックや市場変動に対する抵抗力を高める制度です。バーゼルIII規制に基づき、金融システムの安定性を確保します。商品取引では、金融機関の健全性評価と取引リスク管理において重要な概念です。
流動性カバレッジ比率
LCR(流動性カバレッジ比率)は、金融機関が30日間のストレス状況下で必要となる資金を、高品質な流動資産でカバーできるかを示す指標です。バーゼルIII規制に基づき、金融機関の流動性リスク管理を強化します。商品取引では、金融機関の健全性評価と取引リスク管理において重要な指標です。
リスク加重資産
銀行の資産をリスク度合いに応じて重み付けした総額。資本充足性規制の基準となり、リスクの高い資産ほど多くの資本が必要となる。銀行の健全性を評価する重要な指標。
Tier2資本
ティア2資本は、銀行の自己資本規制における補完的自己資本で、劣後債や劣後ローンが主要構成要素です。商品取引金融において、取引銀行の総合的な財務健全性を評価する際の重要指標となります。ティア1資本と合わせて総自己資本を構成し、バーゼルⅢでは総自己資本比率8%以上が求められています。
レバレッジ比率
レバレッジ比率は、総資産に対する負債の割合を示す財務指標で、企業の財務リスクを測定します。商品取引企業では、大規模な在庫保有や先物ポジションによりレバレッジが高くなりやすく、一般的に2-4倍が適正水準とされます。市況変動時の財務安定性を評価する重要指標として、金融機関や格付機関が重視しています。
Tier1資本
ティア1資本は、銀行の自己資本規制における中核的自己資本で、普通株式と内部留保を主要構成要素とします。商品取引の金融取引やデリバティブ取引において、カウンターパーティーリスク評価の重要指標となり、取引限度額の設定に影響します。バーゼルⅢでは最低6%の比率が求められています。