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自己資本規制比率の算出において、事務処理の誤りその他日常的な業務の遂行上発生し得る危険に相当する額。
基礎的リスク相当額とは、銀行が保有する金利リスクのうち、標準的手法により計算される最低限のリスク量を表す指標です。英語では「Basic Risk Amount」と表記され、バーゼル規制における市場リスクの自己資本規制の一部として位置づけられています。金利、株式、為替、コモディティの各リスクファクターについて、標準化された計算手法により算出され、銀行が最低限保有すべき自己資本の基準となります。内部モデルを使用しない銀行や、内部モデルの承認を得ていない取引について適用される基本的なリスク測定手法です。
この概念は、1996年のバーゼル市場リスク規制の導入とともに確立されました。それまで銀行の市場リスクに対する明確な自己資本規制が存在しなかったため、国際的に統一された標準的手法として導入されました。2016年のバーゼルIII最終化(バーゼルIV)により計算手法が大幅に見直され、より精緻でリスクセンシティブな枠組みに改定されています。日本では金融庁の告示により具体的な計算方法が定められており、すべての銀行が遵守する必要があります。
標準化された手法: 各銀行が独自の判断に依存せず、統一された計算手法により客観的にリスク量を算出します。計算の透明性と比較可能性が確保されています。
保守的な設計: 内部モデルと比較して保守的な前提条件を採用し、最低限のリスク量を確実に捕捉する設計となっています。安全性を重視した規制的な観点から設定されています。
リスクファクター別計算: 金利、株式、為替、コモディティの各リスクファクターについて個別に計算し、最終的に合算してリスク量を算出します。
ポジション別積上げ: 個別のポジションごとにリスク量を計算し、それらを積み上げてポートフォリオ全体のリスク量を算出します。分散効果は限定的にしか認められません。
規制最低基準: 内部モデルを使用する場合でも、基礎的リスク相当額の一定割合(通常25%)を下回ることはできないフロア機能を持ちます。
地域銀行の市場リスク管理: 地域銀行では、内部モデルの開発- 維持コストが高いため、多くが標準的手法による基礎的リスク相当額の計算を採用しています。国債や地方債の保有、預金- 貸出金利の変動リスクについて、標準的手法により毎日リスク量を計算し、自己資本比率規制の分子に算入しています。リスク管理部門では、基礎的リスク相当額の変動を監視し、過度なリスクテイクを抑制するための管理指標として活用しています。
証券会社の自己資本管理: 証券会社では、自己勘定取引や引受業務により保有する有価証券について、基礎的リスク相当額を計算して自己資本規制に対応しています。株式のポジション、債券のポジション、為替のポジションごとに標準的なリスクウェイトを適用し、必要自己資本を算出しています。日々の取引により変動するポジションに応じて、リアルタイムでリスク量を管理し、自己資本比率の維持に努めています。
信託銀行の運用部門: 信託銀行では、信託勘定とは別に銀行勘定で保有する有価証券について基礎的リスク相当額を計算しています。年金信託や投資信託の運用に関連して保有する株式や債券のリスク量を適切に管理し、受託者責任を果たすとともに、自己資本規制への対応を行っています。
外国銀行の日本支店: 外国銀行の日本支店では、本国の内部モデルが日本の規制当局に承認されていない場合、標準的手法による基礎的リスク相当額の計算が必要となります。円金利リスク、株式リスク、為替リスクについて、日本の規制に従った計算を実施し、支店の自己資本充実度を管理しています。
協同組織金融機関: 信用金庫、信用組合、農協などの協同組織金融機関では、規模や専門性の制約により標準的手法を採用している機関が多く、基礎的リスク相当額による市場リスク管理を実施しています。
基礎的リスク相当額は以下の手順により計算されます:
金利リスク: 金利感応度に応じて債券等を満期別にグルーピングし、各グループの正味ポジションに標準的なリスクウェイトを乗じて計算します。イールドカーブリスク、ベーシスリスクも考慮されます。
株式リスク: 個別株式リスクとして各銘柄のポジションに8%のリスクウェイトを適用し、一般市場リスクとして市場全体の変動リスクを追加で計算します。
為替リスク: 各通貨の正味オープンポジションに8%のリスクウェイトを適用して計算します。構造ポジションについては一定の軽減措置があります。
コモディティリスク: 商品ごとの正味ポジションに商品特性に応じたリスクウェイト(15-25%)を適用して計算します。
オプションリスク: デルタプラス手法により、原資産のリスクに加えてガンマリスク、ベガリスクを追加で計算します。
各リスクファクターのリスクウェイトは以下のように設定されています:
金利リスク: 満期に応じて0.00-12.50%の範囲で設定されています。短期ほど低く、長期ほど高いリスクウェイトが適用されます。
株式リスク: 個別株式リスクは8%、一般市場リスクは8%で、合計16%のリスクウェイトが標準的に適用されます。
為替リスク: すべての通貨に一律8%のリスクウェイトが適用されます。金相当額については15%のリスクウェイトが適用されます。
コモディティリスク: エネルギー、貴金属、農産物など商品特性に応じて15-25%のリスクウェイトが設定されています。
オプション: 原資産のリスクに加えて、ガンマリスクとベガリスクが追加で計算されます。
基礎的リスク相当額は以下の規制的役割を持ちます:
自己資本比率規制: 市場リスク相当額として自己資本比率の分母(リスクアセット)に算入され、8%の自己資本の保有が求められます。
内部モデルのフロア: 内部モデルを使用する銀行でも、基礎的リスク相当額の25%を下回ることはできないフロア機能があります。
ピラー2での活用: 監督当局による個別銀行の検査において、市場リスク管理の適切性を評価する基準として使用されます。
開示規制: バーゼル第3の柱に基づき、基礎的リスク相当額の状況について定期的な開示が求められています。
基礎的リスク相当額と内部モデルの関係は以下の通りです:
承認要件: 内部モデルの使用には規制当局の事前承認が必要であり、厳格な要件を満たす必要があります。
フロア機能: 内部モデルによる市場リスク相当額が基礎的リスク相当額の25%を下回る場合、25%を最低基準として適用します。
バックテスト: 内部モデルの精度を検証するため、基礎的リスク相当額との比較も含めたバックテストが求められます。
フォールバック: 内部モデルの承認が取り消された場合、基礎的リスク相当額による計算に戻る必要があります。
基礎的リスク相当額の導入は以下の影響を与えています:
資本効率: 標準的手法は保守的な設計のため、内部モデルと比較して多くの自己資本が必要となり、資本効率が低下する場合があります。
リスク管理の標準化: 統一された計算手法により、銀行間の比較可能性が向上し、リスク管理の標準化が進んでいます。
中小銀行への配慮: 内部モデルの開発が困難な中小銀行でも適用可能な手法として、金融システムの安定性に寄与しています。
国際的調和: 各国の規制当局が共通の枠組みを採用することにより、国際的な金融規制の調和が図られています。
基礎的リスク相当額に関する今後の動向は以下の通りです:
計算手法の精緻化: バーゼル委員会では、より精緻でリスクセンシティブな計算手法の検討が継続されています。
デジタル化対応: フィンテック、暗号資産など新たな金融商品に対応した計算手法の整備が進められています。
気候リスク: 気候変動に関連するリスクを市場リスクの枠組みに組み込む検討が行われています。
システム化: 計算の複雑化に伴い、システムによる自動計算と検証の重要性が高まっています。
基礎的リスク相当額は、銀行の市場リスク管理における基本的な枠組みとして重要な役割を果たしています。適切な理解と運用により、健全な銀行経営と金融システムの安定性確保に貢献することが期待されています。規制の進化に対応した継続的な改善が今後も求められています。
インシデント報告
組織内で発生した、または発生しそうになった望ましくない事象(インシデント:事故、不正、システム障害、ヒヤリハット等)に関する情報を、定められた手順に従って報告・記録するプロセスです。リスク管理や業務改善に繋げます。
納期リスク
契約で定められた納期までに、商品やサービスが買い手に引き渡されない(遅延する)可能性(リスク)のことです。デリバリーリスクの一種であり、生産計画や販売機会に影響を与えます。