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Credit Riskとは、取引相手が契約どおりにお金を払えなくなるリスクのことです。たとえば、商品を売ったのに代金が支払われなかったり、借金の返済が滞ったりするようなケースです。企業、個人、国など、あらゆる相手との取引に付きまとう基本的なリスクです。
信用リスクとは、債務者が契約に基づく債務の履行を怠ることにより、債権者が経済的損失を被るリスクを指します。英語では「Credit Risk」と表記され、「デフォルトリスク」や「債務不履行リスク」とも呼ばれます。貸出、債券投資、デリバティブ取引、信用保証など、相手方の支払い能力に依存する全ての取引に内在する基本的なリスクです。金融機関にとって最も重要なリスクの一つであり、適切な管理が経営の安定性を左右します。
信用リスクの概念は、商業活動の始まりとともに生まれました。古代メソポタミアの商人たちは、遠隔地との取引において相手方の支払い能力を評価する必要がありました。現代的な信用リスク管理は、20世紀初頭の銀行業の発展とともに体系化され、1980年代以降の金融工学の進歩により高度な定量的手法が開発されました。バーゼル規制の導入により、国際的な統一基準に基づく管理が求められています。
非対称性: 信用リスクは本質的に非対称的です。債務者が約束通り支払いを行えば利益は限定的(金利収入のみ)ですが、債務不履行が発生すると元本を含む大きな損失が発生する可能性があります。
時間依存性: 信用力は時間の経過とともに変化するため、長期間の取引ほど信用リスクが高くなる傾向があります。経済環境の変化、業績の悪化、財務状況の変化などが影響します。
相関性: 個別の債務者の信用リスクは独立ではなく、経済環境や業界動向により相関を持ちます。景気後退時には多くの債務者の信用力が同時に悪化する傾向があります。
回収可能性: 債務不履行が発生しても、担保処分や法的手続きにより一部回収が可能な場合があります。回収率は担保の種類、法制度、経済環境により大きく異なります。
情報の非対称性: 債権者と債務者の間には情報格差があり、債務者の真の信用状況を完全に把握することは困難です。この情報格差が信用リスク管理を複雑にしています。
銀行の融資業務: 銀行では、企業や個人への融資において信用リスク評価が中核業務となっています。企業融資では、財務諸表分析、業界分析、経営者評価を通じて信用格付けを付与し、金利や融資条件を決定しています。個人向け住宅ローンでは、年収、勤続年数、信用情報を基にスコアリングモデルで審査を行っています。不良債権比率を一定水準以下に抑制するため、継続的な与信管理と早期の問題債権発見に努めています。
債券投資: 機関投資家は、社債投資において発行企業の信用リスクを詳細に分析しています。格付機関による格付けに加え、独自の信用分析により投資判断を行っています。信用スプレッド(国債との利回り差)の変動により、保有債券の時価が変動するリスクも管理対象となっています。デフォルト確率の上昇により債券価格が下落し、評価損が発生する場合があります。
商社の取引: 総合商社では、世界各地の取引先との商品売買において信用リスクが発生しています。代金回収不能リスクを軽減するため、信用調査、取引限度額設定、信用保険の活用、担保- 保証の取得などの対策を実施しています。新興国の取引先については、カントリーリスクも考慮した総合的な信用評価を行っています。
保険会社の運用: 生命保険会社は、長期の資金運用において大量の社債投資を行っており、信用リスク管理が重要な課題となっています。格付け別の投資限度額設定、業種分散、地域分散により信用リスクを制御しています。格下げリスクや信用イベントによる損失を最小化するため、継続的な信用監視を実施しています。
デリバティブ取引: 金融機関のデリバティブ取引では、取引相手方の信用リスク(カウンターパーティリスク)が重要な管理対象となっています。取引開始時の与信審査に加え、時価変動による信用エクスポージャーの変化を日々監視しています。担保契約(CSA)の締結、ネッティング契約の活用により信用リスクを軽減しています。
信用リスクは以下のように分類されます:
デフォルトリスク: 債務者が元利金の支払いを完全に停止するリスクです。法的整理、私的整理、破産などにより債務履行が不可能になる場合を指します。
信用悪化リスク: デフォルトには至らないものの、債務者の信用力が悪化することにより、債権の時価が下落するリスクです。格下げや信用スプレッドの拡大により発生します。
回収リスク: デフォルト発生後の回収過程において、期待した回収額を下回るリスクです。担保価値の下落、法的手続きの長期化などが要因となります。
集中リスク: 特定の債務者、業種、地域に信用エクスポージャーが集中することにより、ポートフォリオ全体のリスクが拡大するリスクです。
カントリーリスク: 外国の債務者に対する債権において、その国の政治- 経済情勢により回収が困難になるリスクです。
信用リスクは以下の手法により測定されます:
デフォルト確率(PD): 一定期間内に債務者がデフォルトする確率を統計的に推定します。過去のデフォルトデータ、財務データ、市場データを基に算出されます。
デフォルト時損失率(LGD): デフォルト発生時に債権額に対してどの程度の損失が発生するかを示す比率です。担保の有無、回収手続きの効率性により大きく異なります。
デフォルト時エクスポージャー(EAD): デフォルト発生時点での債権残高を示します。コミットメントラインなどの未実行分も考慮して算出されます。
期待損失(EL): PD × LGD × EAD により算出される統計的な期待損失額です。信用コストの予測や貸倒引当金の算出に使用されます。
信用VaR: 一定の信頼水準において、特定期間内に発生する可能性のある信用損失の最大値を統計的に算出します。
信用リスクの評価には以下の手法が用いられます:
財務分析: 貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を分析し、財務健全性を評価します。自己資本比率、収益性、流動性、レバレッジなどの指標を使用します。
格付けモデル: 定量的- 定性的要因を総合して信用格付けを付与するモデルです。内部格付け手法として多くの金融機関で使用されています。
スコアリングモデル: 個人向け小口融資において、統計的手法により自動的に信用スコアを算出するモデルです。効率的な審査と客観的な判断を可能にします。
市場ベース手法: 株価、CDS(クレジット- デフォルト- スワップ)スプレッド、社債スプレッドなどの市場データから信用リスクを推定する手法です。
専門家判断: 定量分析では捉えきれない定性的要因を専門家の判断により評価する手法です。業界知識、経営者評価、事業戦略分析などが含まれます。
信用リスクを軽減するための手法は以下の通りです:
担保- 保証: 不動産、有価証券、預金などの担保や、第三者による保証により信用リスクを軽減します。担保価値の適正評価と定期的な見直しが重要です。
分散投資: 債務者、業種、地域、期間を分散することにより、ポートフォリオ全体のリスクを軽減します。集中リスクの回避が基本原則です。
信用保険: 民間保険会社や政府系機関の信用保険により、デフォルト損失を第三者に移転します。貿易金融や中小企業融資で活用されています。
信用デリバティブ: CDS、CLN(クレジット- リンク債)などの信用デリバティブにより、信用リスクを市場で売買することができます。
ネッティング: 同一相手方との複数取引を相殺することにより、実質的な信用エクスポージャーを削減します。
業界により信用リスクの特徴は異なります:
銀行業: 融資が主要業務であり、信用リスクが最大のリスク要因です。個人、中小企業、大企業向けなど多様な信用リスクを管理しています。
証券業: 信用取引、債券投資、デリバティブ取引において信用リスクが発生します。市場変動により信用エクスポージャーが変化する特徴があります。
保険業: 資産運用における債券投資、再保険取引において信用リスクが発生します。長期運用のため、信用悪化リスクの管理が重要です。
商社: 貿易取引における代金回収リスクが主要な信用リスクです。多様な国- 地域の取引先を相手とするため、カントリーリスクも重要です。
信用リスク管理は以下のような規制- 監督の対象となります:
バーゼル規制: 国際的な銀行規制において、信用リスクに応じた自己資本の保有が義務づけられています。内部格付け手法の使用も認められています。
大口信用供与規制: 単一の債務者に対する信用供与額の上限が設定されており、集中リスクの抑制が図られています。
資産査定: 金融機関の資産内容について、監督当局による定期的な検査が実施されています。不良債権の適切な認識と処理が求められています。
開示規制: 上場企業は信用リスクの状況について、投資家に対する適切な開示が義務づけられています。
信用リスクは、金融業務において避けることのできない基本的なリスクです。適切な評価と管理により、健全な金融仲介機能を維持し、経済の発展に貢献することが金融機関の重要な役割となっています。規制の強化と管理手法の高度化により、より精密で効果的な信用リスク管理が求められています。
ブラックスワン
ブラックスワンとは、「発生確率が極めて低く予測できないが、ひとたび起これば非常に大きな影響をもたらす出来事」のことです。元々は「白鳥は白いもの」という常識が、黒い白鳥の発見で覆されたことに由来し、「ありえないと思われていたが、実際には起きることがある」という意味が込められています。 この概念は、ナシーム・ニコラス・タレブによって広まりました。リーマンショックやパンデミック、大規模テロなどは、過去のデータや常識では予測できなかった例として引用されます。
非システマティックリスク
非システマティックリスクは、個別企業や特定商品に固有のリスクで、分散投資により軽減可能なリスクです。商品市場では、特定産地の天候不順、個別鉱山の事故、特定企業の財務問題などが該当します。適切なポートフォリオ構築により、このリスクを最小化しながら、システマティックリスクに見合うリターンを追求します。
カウンターパーティーリスク
カウンターパーティーリスクは、取引相手が契約上の義務を履行できなくなるリスクです。商品取引では、現物の引渡し、代金決済、デリバティブ取引の履行など、様々な場面で発生します。取引相手の信用力評価、担保管理、ネッティング契約などにより管理され、中央清算機関の利用により軽減されます。
システマティックリスク
システマティックリスクは、市場全体に影響を与える要因により生じる、分散投資では回避できないリスクです。金融危機、景気循環、金利変動、地政学的事象などが要因となります。商品市場では、世界的な需給バランス、通貨変動、規制変更などが該当し、ベータで測定されることが多い市場リスクの基本要素です。
レピュテーショナルリスク
レピュテーショナルリスクは、企業の評判や信用が損なわれることにより、顧客離れ、取引制限、資金調達困難などの損失を被るリスクです。商品取引では、市場操作疑惑、ESG問題、品質問題などが評判リスクの源となります。透明性の確保、倫理的行動、迅速な危機対応により管理します。
市場リスク(マーケットリスク)
市場リスクは、金利、為替、株価、商品価格などの市場価格の変動により、保有資産の価値が変動するリスクです。商品取引では、原油、金属、農産物などの価格変動が主要な市場リスクとなります。ボラティリティの高い商品市場では、適切な管理が収益性と安定性の鍵となります。
規制リスク
規制リスクは、法規制の変更、新規制の導入、規制解釈の変更により事業活動が制約されるリスクです。商品取引では、ポジション制限、証拠金規制、環境規制、貿易規制などが主要な規制リスクです。グローバルな規制動向の監視と、早期の対応準備により、規制変更による影響を最小化します。