EXW

概要

EXW（Ex Works：工場渡し）は、インコタームズ2020で定められた11の貿易条件の中で、売主の責任と費用負担が最も小さい条件です。売主は自社の施設（工場、倉庫、店舗など）で商品を買主の処分に委ねるだけで、積込み、輸送、輸出入通関などの全ての責任と費用は買主が負担します。国内取引に近い形態で、売主にとって最もリスクが少ない条件といえます。

この条件は、買主が輸送手段や輸出入手続きに精通している場合や、売主が輸出業務を行いたくない場合に選択されます。ただし、売主が輸出通関を行わないため、実務上の問題が生じることもあり、国際取引では注意が必要です。

主な特徴

引渡し場所

売主の施設（工場、倉庫等）で引渡しが完了します。売主は商品を買主が引き取れる状態にするだけで、積込み作業の義務はありません。

費用負担の範囲

売主は商品を自社施設で準備するまでの費用のみ負担します。積込み、輸送、保険、通関などの全費用は買主負担です。

危険負担の移転

商品が売主の施設で買主の処分に委ねられた時点で、危険が買主に移転します。それ以降の損傷、滅失リスクは買主が負います。

輸出入通関

輸出通関も買主の責任です。売主は必要書類の提供に協力しますが、通関手続き自体は行いません。

適用可能な輸送手段

あらゆる輸送手段、および複合輸送に適用可能です。

実務での活用

国内取引的な国際取引

売主が輸出業務の経験やリソースがない場合、EXW条件により国内取引と同様の形で国際取引を行えます。

買主主導の物流

買主が独自の物流ネットワークを持ち、輸送を完全にコントロールしたい場合に適しています。

売主のリスク最小化

製品引渡し後のリスクを完全に回避したい売主にとって、最も安全な条件です。

コスト明確化

売主は製品価格のみを提示し、物流コストは買主が直接管理するため、価格構成が明確になります。

メリット- 効果

売主にとってのメリット

輸送リスクがなく、輸出手続きの負担もありません。在庫管理も簡素化され、資金回収も早期に行えます。

買主の物流最適化

買主が輸送手段、ルート、業者を自由に選択でき、自社の物流網を最大限活用できます。

価格の透明性

商品価格と物流費が明確に分離され、コスト構造が把握しやすくなります。

手続きの簡素化（売主側）

売主は輸出入規制、書類作成などの複雑な手続きから解放されます。

注意点- リスク

輸出通関の問題

売主が輸出者でないため、輸出許可取得や税制優遇を受けられない場合があります。実務ではFCAの使用が推奨されることもあります。

買主の負担増大

買主は売主国での輸出通関を含む全ての手続きを行う必要があり、現地の規制や言語の問題に直面する可能性があります。

積込みリスク

売主に積込み義務がないため、買主は積込み作業のリスクと費用を負担する必要があります。

情報提供の限界

売主は輸出に必要な情報提供に協力しますが、積極的な支援義務はないため、買主のリスクが高まります。

関連用語との違い

FCAとの違い

FCAでは売主が輸出通関を行い、指定場所で運送人に引き渡します。EXWより売主の責任が大きくなります。

FOBとの違い

FOBは海上輸送専用で、売主が本船に積み込むまでの責任を負います。EXWとは責任範囲が大きく異なります。

DDPとの違い

DDPは売主の責任が最大で、仕向地での引渡しまで全てを負担します。EXWとは正反対の条件です。

実務ポイント- 事例

契約書への明記

「EXW Seller’s Factory, Tokyo, Japan (Incoterms® 2020)」のように、場所と版を明確に記載します。

積込み協力の取り決め

実務では売主が積込みに協力することが多いため、その場合の責任と費用負担を別途合意することが重要です。

輸出規制品の確認

輸出許可が必要な商品では、買主が許可を取得できるか事前確認が必要です。困難な場合はFCA条件への変更を検討します。

保険の手配

危険移転が早いため、買主は引取り時点から保険を手配する必要があります。売主施設での事故に備えた取り決めも重要です。