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API比重は米国石油協会が定めた原油の密度を表す指標です。水の密度を基準として原油の軽重を数値化したもので、数値が高いほど軽質で、低いほど重質となります。この指標により原油の品質評価や取引価格の決定が行われています。
API比重(American Petroleum Institute gravity)は、米国石油協会によって標準化された原油および石油製品の密度を表す無次元の指標です。華氏60度(約15.6℃)における原油の比重を特定の計算式で変換した値で表されます。計算式は「API比重 = (141.5 ÷ 比重) - 131.5」となっており、水の比重1.0を基準として算出されます。この指標は原油取引において最も重要な品質指標の一つとして、世界中で広く使用されています。
API比重の数値は原油の軽重を直感的に理解できるように設計されています。数値が高いほど密度が低く軽質な原油を示し、数値が低いほど密度が高く重質な原油を示します。一般的に、API比重10度の原油は水と同じ密度を持ち、それ以下の原油は水に沈みます。商業的に取引される原油の多くは10度から70度の範囲に分布しています。
原油の分類において、API比重は最も基本的な指標として使用されます。業界標準では、API比重31.1度以上を軽質原油、22.3度から31.1度を中質原油、22.3度以下を重質原油、10度以下を超重質原油として分類しています。この分類は精製の難易度や得られる製品の種類と密接に関連しています。
軽質原油は揮発性成分を多く含み、ガソリンや軽油などの高価値製品の収率が高くなります。一方、重質原油は重質留分を多く含み、重油やアスファルトの生産に適していますが、軽質製品を得るためには高度な精製設備が必要となります。このため、API比重の違いは原油価格に直接的な影響を与え、一般的に軽質原油ほど高値で取引される傾向があります。
品質評価においては、API比重と硫黄含有量を組み合わせて総合的に判断されます。例えば、WTI原油はAPI比重約40度の軽質かつ低硫黄原油として、高品質原油の代表例となっています。
世界各地で生産される原油は、地質学的な生成条件の違いによって様々なAPI比重を示します。中東地域のアラビアンライト原油は約33度、北海ブレント原油は約38度、米国のWTI原油は約40度となっています。一方、ベネズエラのオリノコ原油は10度以下、カナダのオイルサンド由来の原油も10-20度程度と重質です。
原油の生産において、API比重は採掘方法にも影響を与えます。軽質原油は流動性が高いため通常の採掘方法で生産可能ですが、重質原油は粘度が高いため、蒸気注入法や希釈剤の添加などの特殊な技術が必要となります。特に超重質原油の場合、採掘コストが大幅に増加するため、原油価格が一定水準以上でなければ経済的に採算が取れません。
近年のシェールオイル革命により、米国では比較的軽質な原油の生産が増加しています。パーミアン盆地やイーグルフォード層から産出されるシェールオイルの多くは、API比重40-50度の超軽質原油であり、世界の原油供給構造に大きな変化をもたらしています。
API比重は精製所の原油選択において決定的な要因となります。精製所は自身の設備能力に応じて、処理可能な原油のAPI比重範囲が決まっています。簡易精製設備しか持たない精製所は軽質原油しか処理できませんが、高度化された精製所は重質原油も効率的に処理できます。
軽質原油(API比重35度以上)からは、ガソリンが約30-35%、ジェット燃料が約15-20%、軽油が約20-25%の収率で得られます。これらは輸送用燃料として需要が高く、経済価値も高い製品です。中質原油(API比重25-35度)では、これらの軽質製品の収率が低下し、重油の割合が増加します。
重質原油(API比重25度以下)は、主に重油、アスファルト、石油コークスなどの生産に使用されます。これらの製品は船舶燃料、道路舗装材、製鉄用コークスなどの産業用途で需要があります。ただし、環境規制の強化により、高硫黄重油の需要は減少傾向にあります。
原油市場において、API比重は価格差(品質格差)を決定する主要因子です。基準となるベンチマーク原油に対して、API比重が1度変化するごとに、バレルあたり約0.1-0.3ドルの価格差が生じることが一般的です。この価格差は需給状況や精製マージンによって変動します。
主要な原油価格指標であるWTI、ブレント、ドバイ原油は、それぞれ異なるAPI比重を持つため、恒常的な価格差が存在します。WTI原油(約40度)は最も軽質であるため、通常は最も高値で取引されます。ただし、地域的な需給バランスや輸送コストなどの要因により、この関係が逆転することもあります。
精製マージン(原油コストと石油製品販売価格の差)もAPI比重と密接に関連しています。ガソリン需要が高い時期には軽質原油の価値が上昇し、重質原油との価格差が拡大します。逆に、重油需要が堅調な時期には、価格差が縮小する傾向があります。
世界的な環境規制の強化により、軽質で低硫黄の原油への需要は今後も堅調に推移すると見られています。国際海事機関(IMO)の船舶燃料規制強化により、高硫黄重油の需要が減少し、軽質原油由来の低硫黄燃料への需要が増加しています。
一方で、精製技術の進歩により、重質原油を効率的に軽質製品に転換する能力も向上しています。水素化分解装置や流動接触分解装置などの高度精製設備への投資により、重質原油の処理能力が拡大しており、軽質原油と重質原油の価格差を縮小させる要因となっています。
今後も原油取引においてAPI比重は最重要指標であり続けますが、カーボンニュートラルへの移行に伴い、原油需要自体の変化がAPI比重別の需要構造にも影響を与えることが予想されています。
WTI原油
WTI(West Texas Intermediate)は米国テキサス州西部で産出される軽質スイート原油です。API比重約40度、硫黄含有量約0.24%という優れた品質を持ち、ニューヨーク商品取引所で最も活発に取引される原油先物の基準となっています。北米原油市場の価格指標として機能します。
クラックスプレッド
クラックスプレッドは、原油価格と石油製品価格の差額で、製油所の精製マージンを表す指標です。エネルギー市場では、3-2-1や2-1-1などの比率で原油と製品の価格差を計算し、精製事業の収益性評価とリスクヘッジに活用される重要な概念です。
エネルギー資源
エネルギー資源は経済活動と生活を支える動力源となる資源の総称です。化石燃料(石油・天然ガス・石炭)が一次エネルギーの約80%を占めますが、気候変動対策により再生可能エネルギーへの転換が進んでいます。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立が世界的課題となっています。
サワー原油
サワー原油は硫黄含有量が0.5%を超える高硫黄原油です。精製時に高度な脱硫処理が必要で、硫化水素による設備腐食のリスクも高くなります。処理コストは増加しますが、世界の原油埋蔵量の多くを占める重要な資源であり、スイート原油より安価で取引されるため、高度化精製所では経済的メリットがあります。
ジェット燃料/灯油
ジェット燃料と灯油は、原油精製の中間留分から生産される密接に関連した石油製品です。化学的にはほぼ同一の炭素数9-16の炭化水素混合物で、沸点範囲は150-300℃です。ジェット燃料は航空機用に厳格な品質管理が行われ、灯油は家庭用暖房や照明用として使用されます。両者は季節需要の補完関係にあります。
シェールオイル
シェールオイルは頁岩(シェール)層に含まれる非在来型原油です。水平掘削と水圧破砕技術により商業生産が可能となり、2010年代の米国エネルギー革命を主導しました。API比重35-50度の軽質原油が多く、低硫黄で高品質です。米国を世界最大の原油生産国に押し上げ、世界のエネルギー地図を塗り替えました。