ジェット燃料と灯油は、原油精製の中間留分から生産される密接に関連した石油製品です。化学的にはほぼ同一の炭素数9-16の炭化水素混合物で、沸点範囲は150-300℃です。ジェット燃料は航空機用に厳格な品質管理が行われ、灯油は家庭用暖房や照明用として使用されます。両者は季節需要の補完関係にあります。
ジェット燃料(Jet Fuel)と灯油(Kerosene)は、原油精製過程で同じ留分から生産される密接に関連した石油製品です。化学的組成はほぼ同一で、炭素数9から16程度の炭化水素混合物から成り、主にパラフィン系、ナフテン系、芳香族系炭化水素で構成されています。両者の主な違いは品質規格の厳格さと添加剤の種類で、ジェット燃料は航空機の安全運航のため極めて厳しい規格が適用されます。
歴史的には、灯油が先に登場しました。1850年代に照明用燃料として商業生産が始まり、電気照明の普及まで主要な照明源でした。ジェット燃料は、第二次世界大戦中のジェットエンジン開発とともに誕生し、1950年代の商業航空の発展により需要が急拡大しました。現在、両製品は世界の石油製品需要の約8%を占め、輸送と生活に不可欠な燃料となっています。
物理的特性として、密度は0.775-0.840 g/cm³、沸点範囲は150-300℃です。この沸点範囲は、ガソリンより重く軽油より軽い中間的な性質を示します。引火点は38℃以上で、常温での取り扱いは比較的安全です。凝固点は用途により異なり、ジェット燃料は-47℃以下、一般灯油は-20℃程度が標準です。
ジェット燃料の品質規格は極めて厳格です。国際規格のJet A-1(民間航空機用)では、凝固点-47℃以下、引火点38℃以上、硫黄含有量0.30%以下が要求されます。さらに、熱安定性、電気伝導度、潤滑性、水分含有量など、30項目以上の品質項目が規定されています。軍用規格のJP-8はさらに厳しく、氷結防止剤や腐食防止剤などの添加剤が配合されます。
灯油の品質規格は、地域と用途により異なります。日本のJIS1号灯油は、引火点40℃以上、硫黄分0.008%以下、煙点23mm以上が規定されています。暖房用灯油には凝固点と流動点の規格があり、寒冷地用は特別な処理が施されます。欧州では暖房用灯油とディーゼルの規格が近く、着色により区別されています。
添加剤は両製品の重要な差別化要素です。ジェット燃料には、氷結防止剤(FSII、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)、酸化防止剤、金属不活性化剤、静電気防止剤(SDA)などが添加されます。これらは高高度での安全な運航を保証するために不可欠です。灯油には、貯蔵安定性向上のための酸化防止剤と、識別のための着色剤が添加される程度です。
品質管理体制も大きく異なります。ジェット燃料は、製油所から空港の航空機タンクまで、複数段階で品質検査が実施されます。特に空港での最終検査は厳格で、水分、微粒子、微生物汚染などが詳細にチェックされます。一方、灯油は製油所出荷時の検査が中心で、流通過程での管理は比較的簡素です。
ジェット燃料と灯油は、原油精製の常圧蒸留装置で得られる中間留分(ケロシン留分)から生産されます。この留分は原油の約10-15%を占め、水素化精製により硫黄分を除去し、品質規格に適合させます。ジェット燃料向けには追加的な精製処理と厳格な品質管理が必要ですが、基本的な生産プロセスは同じです。
世界の生産量は、ジェット燃料が日量約700万バレル、灯油が日量約100万バレルです。主要生産国は、米国(ジェット燃料日量160万バレル)、中国(同100万バレル)、インド(同40万バレル)、日本(同30万バレル)です。生産は需要地に近い製油所で行われ、長距離輸送は限定的です。
供給インフラは用途別に整備されています。ジェット燃料は、製油所から空港までパイプライン、鉄道、タンクローリーで輸送され、空港内の貯蔵タンクに保管されます。主要空港では、ハイドラント- システムと呼ばれる地下配管網により、駐機場まで直接供給されます。灯油は、製油所から油槽所を経て、タンクローリーで家庭や給油所に配送されます。
季節的な生産調整も重要な特徴です。北半球では、夏季はジェット燃料需要が増加し、冬季は暖房用灯油需要が増加します。製油所は、同じ設備で両製品を生産できるため、季節需要に応じて生産比率を調整します。この柔軟性により、需給バランスの維持と設備稼働率の最適化が図られています。
ジェット燃料の主用途は商業航空です。世界の航空機は年間約40億人の旅客と5,000万トンの貨物を輸送しており、この巨大な航空輸送を支える基幹燃料となっています。1フライトあたりの燃料消費量は、短距離路線で数千リットル、長距離国際線では10万リットルを超えることもあります。航空需要は、2024年にはCOVID-19前の水準を回復し、今後も年率4-5%の成長が予想されています。
灯油の最大用途は暖房です。日本では約2,400万世帯が灯油暖房を使用し、冬季の暖房用エネルギーの約30%を占めます。韓国、中国北部、カナダなどの寒冷地でも、灯油暖房が広く普及しています。また、温室栽培、穀物乾燥などの農業用途、小型発電機の燃料としても使用されます。
発展途上国では、灯油は調理と照明に使用されています。電力インフラが未整備な地域では、灯油ランプが主要な照明源で、灯油コンロが調理に使われます。インド、インドネシア、アフリカ諸国では、数億人が日常的に灯油を使用していますが、LPGや電気への転換も進んでいます。
軍事用途も相当な需要があります。軍用ジェット燃料(JP-8、JP-5)は、戦闘機、輸送機、ヘリコプターの燃料として使用されます。また、NATO諸国では「単一燃料概念」により、JP-8を車両や発電機にも使用し、補給の簡素化を図っています。世界の軍事用ジェット燃料需要は、日量約30万バレルと推定されています。
ジェット燃料価格は、原油価格と密接に連動し、ケロシン- クラック- スプレッドにより評価されます。このスプレッドは、季節要因、航空需要、在庫水準により変動し、通常は原油価格に対してバレルあたり10-20ドルのプレミアムとなります。COVID-19による航空需要激減時には、一時的にマイナスになることもありました。
価格指標として、シンガポール市場のジェット燃料価格がアジア太平洋地域の基準となっています。欧州ではARA(アムステルダム- ロッテルダム- アントワープ)市場、米国ではメキシコ湾岸価格が指標として使用されます。これらの価格は、プラッツ社などの価格評価機関により日次で公表され、取引の基準となっています。
灯油価格は、地域性が強く、需要の季節変動が大きいことが特徴です。日本では、冬季の灯油価格は夏季より10-20%高くなることが一般的です。政府による価格監視も行われ、異常な価格上昇時には備蓄放出などの対策が取られます。補助金制度を持つ国も多く、インドやインドネシアでは、低所得層向けに補助金付き灯油が供給されています。
先物市場は限定的ですが、リスク管理手段として活用されています。NYMEXではHeating Oil先物(実質的に灯油相当品)が取引され、ICEではJet Fuel先物の取引があります。航空会社は、燃料費変動リスクをヘッジするため、これらの先物市場や店頭デリバティブを活用しています。
航空産業の脱炭素化により、持続可能航空燃料(SAF)への転換が加速しています。SAFは、廃食用油、農業残渣、都市ごみなどから製造され、ライフサイクルCO2を最大80%削減できます。国際航空運送協会(IATA)は、2050年までにネットゼロを目標としており、SAFの需要は急拡大すると予想されます。2024年現在の生産量は年間約50万トンですが、2030年には1,000万トン以上が必要とされています。
電動航空機と水素航空機の開発も進んでいます。短距離路線向けの電動航空機は2030年代前半の商業運航を目指しており、中長距離向けの水素航空機は2035年以降の実用化が期待されています。しかし、技術的課題とインフラ整備の必要性から、当面はジェット燃料が主力であり続けると予想されます。
灯油需要は、先進国では減少傾向にあります。日本では、高効率ヒートポンプの普及と人口減少により、灯油需要は年率2-3%で減少しています。一方、新興国では、LPGや電気への転換が政策的に推進されていますが、価格優位性から灯油需要は当面維持される見込みです。
品質規格の進化も続いています。航空機の燃費改善のため、より高性能なジェット燃料の開発が進められています。また、バイオ由来成分の混合基準、電気伝導度の管理強化など、新たな品質項目の追加も検討されています。これらの
航空燃料, ケロシン系ジェット燃料
WTI原油
WTI(West Texas Intermediate)は米国テキサス州西部で産出される軽質スイート原油です。API比重約40度、硫黄含有量約0.24%という優れた品質を持ち、ニューヨーク商品取引所で最も活発に取引される原油先物の基準となっています。北米原油市場の価格指標として機能します。
クラックスプレッド
クラックスプレッドは、原油価格と石油製品価格の差額で、製油所の精製マージンを表す指標です。エネルギー市場では、3-2-1や2-1-1などの比率で原油と製品の価格差を計算し、精製事業の収益性評価とリスクヘッジに活用される重要な概念です。
エネルギー資源
エネルギー資源は経済活動と生活を支える動力源となる資源の総称です。化石燃料(石油・天然ガス・石炭)が一次エネルギーの約80%を占めますが、気候変動対策により再生可能エネルギーへの転換が進んでいます。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立が世界的課題となっています。
API比重
API比重は米国石油協会が定めた原油の密度を表す指標です。水の密度を基準として原油の軽重を数値化したもので、数値が高いほど軽質で、低いほど重質となります。この指標により原油の品質評価や取引価格の決定が行われています。
サワー原油
サワー原油は硫黄含有量が0.5%を超える高硫黄原油です。精製時に高度な脱硫処理が必要で、硫化水素による設備腐食のリスクも高くなります。処理コストは増加しますが、世界の原油埋蔵量の多くを占める重要な資源であり、スイート原油より安価で取引されるため、高度化精製所では経済的メリットがあります。
シェールオイル
シェールオイルは頁岩(シェール)層に含まれる非在来型原油です。水平掘削と水圧破砕技術により商業生産が可能となり、2010年代の米国エネルギー革命を主導しました。API比重35-50度の軽質原油が多く、低硫黄で高品質です。米国を世界最大の原油生産国に押し上げ、世界のエネルギー地図を塗り替えました。