クレジットVaR(Credit VaR)は、信用リスクに特化したVaRで、取引先のデフォルトや格付変更による損失リスクを測定します。商品取引ではカウンターパーティリスクの定量化と、信用リスク調整後の収益性評価に不可欠な指標です。
クレジットVaR(Credit Value at Risk)は、信用リスクに起因する潜在的損失を統計的に推定するリスク指標です。取引相手のデフォルト、格付変更、信用スプレッド拡大等による損失を、一定の信頼水準と期間で定量化します。市場リスクのVaRが価格変動を対象とするのに対し、クレジットVaRは信用イベントによる損失に焦点を当てます。商品取引では、OTC取引のカウンターパーティリスク、商品融資の信用リスク、倉庫証券の発行体リスク等の評価に不可欠です。特に、長期供給契約や複雑なデリバティブ取引では、信用リスクが重要なリスク要因となります。
クレジットVaRの計算には、主にCreditMetrics、CreditRisk+、KMVモデル等が使用されます。基本的な構成要素は、デフォルト確率(PD)、デフォルト時損失率(LGD)、デフォルト時エクスポージャー(EAD)、相関構造です。損失分布は、L = Σ(EAD_i × LGD_i × I_i)で表され、I_iはデフォルト指示関数です。モンテカルロシミュレーションにより、相関を考慮した損失分布を生成し、指定された信頼水準での最大損失を算出します。格付遷移行列を用いることで、格下げリスクも評価できます。
商品取引におけるクレジットVaRの適用は多岐にわたります。OTCデリバティブでは、取引相手の信用力悪化による時価評価損失を評価します。現物取引では、前払い後の商品未受領リスク、後払いでの代金未回収リスクを定量化します。商品融資(在庫融資、前払融資)では、借り手のデフォルトによる損失を推定します。また、倉庫会社、船会社、検査機関等のサービスプロバイダーの信用リスクも評価対象となります。長期供給契約では、契約期間中の信用力変化を動的に評価する必要があります。
商品取引特有の課題として、Wrong Way Risk(WWR)があります。これは、エクスポージャーと信用力が負の相関を持つ状況です。例えば、原油生産者との原油スワップでは、原油価格下落時に生産者の信用力も悪化し、損失が拡大します。金属精錬会社との金属先渡契約でも同様の関係があります。WWRを考慮したクレジットVaRでは、商品価格と信用スプレッドの相関をモデル化し、ストレスシナリオでの損失を評価します。この相関構造の適切な推定が、リスク評価の精度を大きく左右します。
クレジットVaRは、信用リスク軽減策の効果を定量化します。担保(現金、商品現物、信用状等)により、LGDが減少し、クレジットVaRが低下します。ただし、担保価値の変動性も考慮する必要があり、特に商品担保では価格ボラティリティが高いため、ヘアカット率の適切な設定が重要です。ネッティング契約により、EADを削減できます。クレジットデリバティブ(CDS等)による信用リスクヘッジ効果も、クレジットVaRに反映されます。親会社保証、銀行保証等の信用補完も、PDの改善として評価されます。
バーゼル規制では、信用リスクアセットの計算にクレジットVaRの概念が組み込まれています。内部格付手法(IRB)では、自社推定のPD、LGD、EADを用いて所要自己資本を算定します。CVA(Credit Valuation Adjustment)リスク資本では、カウンターパーティの信用スプレッド変動リスクを評価します。商品取引会社も、規制対象となる場合は同様の計算が求められます。また、IFRS9の予想信用損失(ECL)モデルでも、クレジットVaRと類似のアプローチが採用されています。ビッグデータ分析により、取引相手の信用力をリアルタイムで評価できるようになっています。また、気候変動リスクを組み込んだクレジットVaR、サプライチェーンリスクを考慮した拡張モデル等、新たなリスク要因への対応も進んでいます。統合リスク管理の観点から、市場リスクVaRとの統合モデルの開発も重要な課題となっています。
現金・運搬裁定
キャッシュ・アンド・キャリー裁定(Cash-and-Carry Arbitrage)は、現物を購入して同時に先物を売却し、理論価格との乖離から無リスク利益を得る取引戦略です。持越費用(保管料、金利、保険料など)を考慮した理論価格より先物が割高な場合に実行されます。商品市場では、現物と先物の価格関係を正常化させる重要なメカニズムとして、市場の効率性維持に貢献しています。
エルスバーグの逆説
エルスバーグの逆説(Ellsberg Paradox)は、確率既知より曖昧な状況を回避する選択バイアスを示す思考実験です。商品取引では不確実性下の意思決定で、流動性の低い新興市場や新商品への投資判断に影響を与える行動経済学的現象です。
認知バイアス
認知バイアス(Cognitive Bias)は、経験や思い込みによる系統的な判断の歪みを指す心理的傾向です。商品取引では確証バイアス、アンカリング、損失回避等が価格予測とポジション管理に影響し、行動ファイナンスの重要な研究対象です。
流動性プレミアム
Liquidity Premium(流動性プレミアム)は、流動性の低い資産に対して投資家が要求する追加的な収益率です。取引が困難な商品ほど高いプレミアムが要求され、流動性リスクに対する補償として機能します。商品取引では限月間価格差や銘柄間格差の重要な決定要因として、投資判断と価格評価の基本概念となっています。
流動性調整VaR
流動性調整VaR(Liquidity-Adjusted VaR)は、市場流動性リスクを考慮し、ポジション解消に必要な時間とコストを反映したVaRです。商品取引では流動性の低い商品や大口ポジションのリスク評価において、より現実的な損失推定を提供します。
出来高
Trading Volume(出来高)は、特定期間内に成立した取引の総量を示す最も基本的な市場指標です。高い出来高は活発な取引と良好な流動性を表し、価格発見機能の効率性を示します。商品取引では市場トレンドの確認、流動性リスクの評価、最適な取引タイミングの判断において不可欠な分析指標です。
流動性比率
Liquidity Ratio(流動性比率)は、市場や金融機関の流動性水準を定量的に評価する指標群の総称です。取引量対建玉比率、現金化可能資産比率、流動負債カバー率など、様々な角度から流動性を測定します。商品取引では市場の健全性評価と企業の資金調達能力の分析において不可欠な管理ツールです。
スリッページ
金融商品などを売買する際に、注文を出した価格(希望価格)と、実際に約定(成立)した価格との間に生じるずれ(差)のことです。特に市場の急変時や流動性が低い場合に発生しやすくなります。