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与信は、取引先に対して信用を供与し、後払いでの取引を認める行為です。商品取引では、売掛金、受託在庫、前渡金などの形で与信が発生します。信用調査、限度設定、モニタリング、回収管理の一連のプロセスで管理します。
与信(Credit Extension)は、取引相手に対して信用を供与し、即時決済ではなく将来の支払いを前提として商品やサービスを提供する、あるいは資金を融通する行為を指します。商品取引においては、売掛金による後払い販売、買掛金による後払い購入、在庫の委託- 受託、前渡金- 前受金、信用状なしの輸出入取引、デリバティブ取引の証拠金免除など、様々な形態で与信が発生します。これは商取引の円滑化と拡大に不可欠な機能であり、同時に信用リスクの源泉でもあります。
与信の本質は、信頼関係に基づく商取引の効率化にあります。全ての取引を現金決済や前払いで行うことは非現実的であり、与信により取引コストの削減、商流の加速、事業機会の拡大が可能となります。商品取引では、国際間の時差、輸送期間、季節性などにより、与信期間が長期化する傾向があり、適切な与信管理が事業の成否を左右します。
商品取引における与信には多様な形態があります。
売掛金与信は最も一般的な形態です。商品を引き渡してから、30日、60日、90日などの支払い条件で代金を回収します。商品取引では、国際慣習、商品特性、取引先との力関係により条件が決まります。原油取引では30日、穀物取引では信用状ベースが一般的ですが、長期契約では異なる条件となることもあります。
在庫与信は、委託販売、受託加工などで発生します。取引先の倉庫に在庫を預け、販売後に精算する形態です。Consignment(委託販売)、VMI(Vendor Managed Inventory)などがあります。商品の所有権は移転しても、代金回収リスクが残ります。石油製品の給油所向け供給、金属の加工業者向け供給などで一般的です。
前払い与信は、購入代金を前払いする形態です。産地直接取引、長期供給契約、プロジェクト向け供給などで発生します。供給者の信用リスク、パフォーマンスリスクを負います。農産物の産地前渡金、鉱山開発への前払いなど、商品取引特有の与信形態です。
体系的な与信管理プロセスが重要です。
与信審査は、新規取引開始時の重要なステップです。財務分析、信用調査、取引条件の設定を行います。商品取引では、取引先の事業内容、取扱商品、市場地位、過去の取引実績なども重要な審査項目です。外部信用情報(D&B、帝国データバンクなど)、銀行照会、商業登記などを活用します。国際取引では、カントリーリスクも考慮します。
与信限度設定により、リスクエクスポージャーを管理します。取引先の信用力、取引の収益性、自社のリスク許容度を考慮して限度額を決定します。商品取引では、価格変動による限度消化率の変動、季節的な取引量変動なども考慮します。親会社保証、銀行保証がある場合は、限度を拡大できます。
与信モニタリングにより、継続的にリスクを管理します。支払い状況の監視、財務状況の定期レビュー、市場情報の収集などを行います。商品取引では、在庫水準、ヘッジポジション、主要取引先の動向なども監視します。早期警戒指標(支払い遅延、格付け低下、株価下落など)により、問題を早期発見します。
適切な与信条件の設定が重要です。
支払い条件は、商慣習と信用リスクのバランスで決定します。現金取引(COD)、前払い、後払い(NET30、NET60など)、分割払いなどがあります。商品取引では、商品の特性(腐敗性、価格変動性)、輸送期間、決済通貨なども考慮します。優良先には有利な条件、リスク先には厳格な条件を設定します。
担保- 保証条件により、与信リスクを軽減します。動産担保(在庫、売掛金)、不動産担保、預金担保などを徴求します。親会社保証、銀行保証、信用保険なども活用します。商品取引では、商品在庫への担保設定、倉庫証券の活用、所有権留保条項などが一般的です。
与信期間管理により、資金効率を最適化します。DSO(Days Sales Outstanding)を指標として、回収期間を管理します。早期支払い割引、延滞金利などのインセンティブを設定します。商品取引では、価格変動リスクと与信期間の関係を考慮し、ボラティリティの高い商品では短期間の与信とします。
商品の種類により与信管理のアプローチが異なります。
エネルギー取引では、価格変動が大きく、与信エクスポージャーが急変します。マージンコール、担保調整などの仕組みを組み込みます。国営石油会社、メジャー、独立系で与信アプローチが異なります。長期契約では、テイク- オア- ペイ条項などで与信リスクを軽減します。
金属取引では、LME価格を基準とした価格決定により、与信額が変動します。価格確定のタイミング、ヘッジの有無により与信リスクが変わります。在庫ファイナンス、トーリング(委託精錬)などの特殊な与信形態があります。倉庫会社、検査会社との連携が重要です。
農産物取引では、季節性、天候リスク、品質リスクなどが与信管理に影響します。収穫期の資金需要、端境期の在庫ファイナンスなど、時期により与信ニーズが変動します。産地での前渡金、サイロでの保管など、物流と一体となった与信管理が必要です。
与信リスクを定量的に評価することが重要です。
期待損失の計算により、与信コストを把握します。EL = PD × LGD × EAD の式で、取引先別、ポートフォリオ全体の期待損失を算出します。商品取引では、商品価格シナリオを考慮した期待損失計算が必要です。これを与信プライシングに反映させます。
信用VaRにより、予期せぬ損失を評価します。信頼水準(例:99%)での最大損失額を計算し、必要資本を算定します。商品価格変動と信用リスクの相関を考慮したモデルが必要です。ストレステストにより、極端なシナリオでの損失も評価します。
与信集中度分析により、特定先への過度な集中を管理します。HHI(ハーフィンダール- ハーシュマン指数)などで集中度を測定します。商品取引では、商品別、地域別の集中度も重要です。上位10社集中度、最大与信先比率などの指標も活用します。
効果的な回収管理により、損失を最小化します。
債権管理体制により、組織的な回収を実現します。営業部門と独立した債権管理部門を設置し、専門的な回収活動を行います。エージング分析により、延滞債権を期日別に管理します。商品取引では、商品の差押え、転売などの実務知識も必要です。
段階的回収アプローチにより、状況に応じた対応を行います。リマインダー、督促状、訪問交渉、法的措置の順で段階的にエスカレーションします。商品取引では、供給停止、在庫引き上げなどの手段もあります。取引関係の維持と回収の最大化のバランスが重要です。
法的回収手段により、最終的な回収を図ります。支払い命令、仮差押え、強制執行などの法的手続きを行います。国際取引では、仲裁、信用状の買取請求なども活用します。倒産手続きでは、債権者委員会への参加、会社更生への協力なども検討します。商品取引では、商品フロー、在庫データなども組み込みます。リアルタイムでの与信判断も可能になりつつあります。スマートコントラクトによる自動決済、分散台帳による取引記録の共有などが実現しています。貿易金融では、信用状のデジタル化、貨物追跡との連携なども進んでいます。与信情報の安全な共有も可能となります。
統合プラットフォームにより、エンドツーエンドの与信管理が実現しています。CRM、ERP、リスク管理システムを統合し、与信プロセス全体を一元管理します。API連携により、外部データソースともリアルタイム連携します。商品取引では、商品管理システムとの統合が特に重要です。
規制要件が与信管理に影響を与えます。
IFRS 9/CECLにより、予想信用損失の計上が必要です。将来予測情報を含む期待信用損失を、与信時点から認識します。商品取引関連の債権も対象となり、適切なモデル構築が必要です。マクロ経済シナリオ、商品価格シナリオを反映した計算が求められます。
マネーロンダリング規制により、取引先の確認が強化されています。KYC(Know Your Customer)、CDD(Customer Due Diligence)の徹底が必要です。商品取引では、原産地、最終仕向地の確認も重要です。制裁対象国、制裁対象者のスクリーニングも必須です。
データ保護規制により、与信情報の管理が厳格化しています。GDPR、個人情報保護法などにより、情報の収集、利用、保管に制限があります。与信情報の共有、外部委託にも注意が必要です。サイバーセキュリティ対策も重要な要素です。
信用供与, クレジット
クレジットスプレッドリスク
クレジットスプレッドリスクは、信用スプレッドの変動により損失が発生するリスクです。商品取引では、取引先企業の信用力変化、市場環境悪化により、保有ポジションの評価損や資金調達コスト上昇が生じます。
デフォルト時損失率
デフォルト時損失率(LGD)は、債務不履行が発生した場合に失われる債権額の割合です。商品取引では、担保価値、優先順位、回収プロセスの効率性により変動します。通常40-60%程度ですが、無担保取引では100%近くになることもあり、期待損失計算の重要要素です。
担保
担保は、債務不履行時の損失を軽減するために徴求する資産や権利です。商品取引では、商品在庫、売掛金、倉庫証券、信用状、預金などを担保とします。適切な評価、法的有効性の確保、継続的な管理が信用リスク軽減の鍵となります。
決済リスク
決済リスクは、取引の決済過程で相手方が義務を履行しない、または遅延するリスクです。商品取引では、商品引渡しと代金支払いの時間差、異なる法域間の決済などで発生します。DVP(同時決済)、エスクロー、信用状の活用により軽減を図ります。
ネッティング
ネッティングは、同一取引先との債権債務を相殺し、純額で決済する仕組みです。商品取引では、売買取引、デリバティブ、複数通貨の取引を包括的に相殺します。法的有効性の確保により、信用リスクと決済リスクを大幅に削減できます。
デフォルト確率
デフォルト確率(PD)は、債務者が一定期間内にデフォルトする確率を示す指標です。商品取引では、取引先の財務状況、市場環境、業界動向から推定します。格付け、統計モデル、市場情報を組み合わせて算出し、与信判断と期待損失計算の基礎となります。
与信限度額
与信限度は、取引先に対して供与できる信用の上限額です。商品取引では、売掛金、在庫委託、デリバティブエクスポージャーなどの合計額を管理します。信用力、取引実績、担保状況により設定し、定期的に見直します。