読み込み中...
ディーゼル(軽油)は、ディーゼルエンジン用の燃料として使用される石油製品です。炭素数10から20の炭化水素混合物で、沸点範囲は180-360℃です。セタン価により着火性が評価され、ガソリンより燃費効率が高いことが特徴です。トラック、バス、船舶、鉄道、発電機など、産業・商業輸送の基幹燃料として世界経済を支えています。
ディーゼル(Diesel)、日本では軽油と呼ばれる石油製品は、ディーゼルエンジン用の燃料として設計された中間留分の石油製品です。化学的には炭素数10から20程度の炭化水素混合物で、主にパラフィン系とナフテン系炭化水素で構成されています。ガソリンより重質で揮発性が低く、圧縮着火方式のディーゼルエンジンに適した特性を持っています。
ディーゼル燃料の歴史は、1892年のルドルフ- ディーゼルによる圧縮着火エンジンの発明に始まります。当初は植物油を燃料として想定していましたが、石油精製技術の発展により、石油由来の軽油が主要燃料となりました。ディーゼルエンジンの高い熱効率と耐久性により、20世紀を通じて商業輸送と産業用動力の主力となり、現在では世界の石油製品需要の約28%を占める最重要燃料の一つです。
物理的特性として、ディーゼルの密度は0.82-0.86 g/cm³、沸点範囲は180-360℃です。この沸点範囲により、適度な揮発性と高い発熱量を両立しています。引火点は52℃以上と、ガソリンに比べて高く、常温での取り扱いが比較的安全です。動粘度は2-4.5 mm²/s(40℃)で、燃料噴射システムでの適切な霧化と潤滑性を提供します。
ディーゼル燃料の最重要品質指標はセタン価です。セタン価は圧縮着火の容易さを示す数値で、高いほど着火遅れが短く、スムーズな燃焼が得られます。日本のJIS規格では45以上、欧州のEN590では51以上、米国では40以上が標準です。高セタン価燃料は、冷間始動性の向上、騒音低減、排気ガス削減に寄与します。
硫黄含有量は環境規制の観点から最も厳しく管理されています。日本と欧州では10ppm以下(超低硫黄軽油、ULSD)、米国では15ppm以下に規制されています。この超低硫黄化により、排気ガス後処理装置の効率的な作動が可能となり、粒子状物質(PM)と窒素酸化物(NOx)の大幅な削減が実現されています。
低温特性も重要な品質項目です。流動点、曇り点、目詰まり点(CFPP)により、低温での使用性が評価されます。日本では地域と季節により5種類(特1号から特3号、1号、2号、3号)の規格があり、北海道の冬季用特3号は流動点-30℃以下が要求されます。添加剤により低温流動性を改善した寒冷地用軽油も供給されています。
潤滑性も重要な品質特性です。超低硫黄化により天然の潤滑成分が除去されるため、潤滑性向上剤の添加が必要です。HFRR(High Frequency Reciprocating Rig)試験により評価され、摩耗痕径460μm以下が標準です。また、バイオディーゼル(FAME)の混合により潤滑性が向上するため、多くの国で5-7%の混合が行われています。
ディーゼルは原油精製の中間留分として生産されます。常圧蒸留装置から直接得られる直留軽油が基本となり、これに水素化脱硫装置で硫黄分を除去し、品質規格に適合させます。重質留分を分解して得られる分解軽油も混合されます。典型的な製油所では、原油1バレルから約0.3バレルのディーゼルが生産されます。
世界のディーゼル生産は、需要の地域差を反映して偏在しています。欧州は伝統的にディーゼル車比率が高く、精製設備もディーゼル生産に最適化されています。アジア太平洋地域は最大の生産地域で、中国(日量約400万バレル)、インド(日量約150万バレル)、日本(日量約80万バレル)が主要生産国です。米国は日量約500万バレルを生産しています。
供給チェーンは、用途の多様性を反映して複雑です。陸上輸送用(自動車用軽油)、船舶用(マリンガスオイル、MGO)、産業用(A重油相当品)など、用途別に品質と流通経路が異なります。日本では、自動車用軽油は給油所で、産業用は直接配送で供給されます。船舶用は主要港湾でバンカリング(船舶への燃料供給)として提供されます。
バイオディーゼルの導入も世界的に進んでいます。欧州では、菜種油由来のFAME(脂肪酸メチルエステル)を7%混合したB7が標準です。インドネシアではパーム油由来のB30(30%混合)が義務化されています。米国では大豆油由来のバイオディーゼルが主流で、B5からB20が使用されています。日本でも、B5の品質規格が制定され、導入が進められています。
ディーゼル燃料の最大用途は商業輸送です。トラック、バス、鉄道などの陸上貨物- 旅客輸送が世界のディーゼル需要の約45%を占めます。ディーゼルエンジンの高い燃費効率と耐久性により、長距離輸送や重量物運搬において不可欠な燃料となっています。欧州では乗用車でもディーゼル車比率が高く、一時は新車販売の50%以上を占めていました。
海運部門も重要な需要先です。小型船舶から大型コンテナ船まで、多くの船舶がディーゼルエンジンを搭載しています。国際海事機関(IMO)の硫黄規制強化により、従来の高硫黄重油から低硫黄のマリンガスオイル(MGO、ディーゼル相当品)への切り替えが進み、需要が急増しています。世界の船舶用ディーゼル需要は日量約200万バレルと推定されています。
産業- 発電用途も相当な需要があります。非常用発電機、建設機械、農業機械、鉱山機械などで広く使用されています。特に、電力網が未整備な地域では、ディーゼル発電が主要な電力源となっています。データセンターや病院の非常用電源としても重要で、信頼性の高い電力供給を支えています。
地域別需要は、経済構造と輸送インフラを反映しています。中国は世界最大のディーゼル消費国で、日量約400万バレルを消費します。欧州は日量約450万バレル、米国は日量約400万バレル、インドは日量約180万バレルです。新興国では、経済成長に伴う物流需要の増加により、ディーゼル需要が年率3-5%で成長しています。
ディーゼル価格は、原油価格との連動性が高く、精製マージンと地域需給により変動します。一般的に、ディーゼルはガソリンよりやや高値で取引される傾向があります。これは、需要の価格弾力性が低いこと、品質規格が厳格なこと、冬季の暖房油需要との競合などによるものです。
先物市場では、NYMEXの超低硫黄ディーゼル(ULSD)先物、ICEのガスオイル先物が主要な取引商品です。これらは、現物市場の価格指標として機能するとともに、市場参加者のリスクヘッジ手段となっています。アジアでは、シンガポール市場の10ppmガスオイル価格が地域指標として使用されています。
クラック- スプレッドは精製採算性の重要指標です。ディーゼル- クラック(原油価格とディーゼル価格の差)は、季節により大きく変動します。北半球の冬季(10-3月)は暖房需要により拡大し、夏季は縮小する傾向があります。2020-2024年の期間、ディーゼル- クラックは1バレルあたり10-40ドルの範囲で変動しています。
小売価格は、各国の税制により大きく異なります。日本では軽油引取税32.1円/Lを含む税金が価格の約30%を占めます。欧州では付加価値税と炭素税により、税金比率が50%を超える国もあります。米国は州により税率が異なりますが、連邦税と州税合わせて20-30%程度です。商業用と一般用で税率が異なる国も多く、価格差別化が行われています。
ディーゼル需要の将来は、環境規制と欧州では、都市部でのディーゼル車規制が強化され、2035年以降の新車販売禁止を決定した国もあります。しかし、商業輸送と産業用途では、エネルギー密度の高さと既存インフラの活用から、当面はディーゼルが主力燃料であり続けると予想されます。
代替燃料の開発も進んでいます。水素化植物油(HVO)は、既存のディーゼルエンジンで100%使用可能な再生可能燃料として注目されています。フィンランドのNeste社は年間330万トンのHVO生産能力を持ち、航空燃料への応用も進めています。また、e-ディーゼルと呼ばれる合成燃料の開発も進んでおり、2030年代の商業化が期待されています。
排気ガス規制の強化は継続します。Euro 7、EPA Tier 4などの次世代規制により、NOxとPMのさらなる削減が求められています。これに対応するため、選択的触媒還元(SCR)、ディーゼル微粒子フィルター(DPF)などの後処理技術が進化しています。また、ハイブリッド化により、都市部での排気ガスゼロ走行を実現する技術も実用化されています。
軽油, Gas Oil
WTI原油
WTI(West Texas Intermediate)は米国テキサス州西部で産出される軽質スイート原油です。API比重約40度、硫黄含有量約0.24%という優れた品質を持ち、ニューヨーク商品取引所で最も活発に取引される原油先物の基準となっています。北米原油市場の価格指標として機能します。
クラックスプレッド
クラックスプレッドは、原油価格と石油製品価格の差額で、製油所の精製マージンを表す指標です。エネルギー市場では、3-2-1や2-1-1などの比率で原油と製品の価格差を計算し、精製事業の収益性評価とリスクヘッジに活用される重要な概念です。
エネルギー資源
エネルギー資源は経済活動と生活を支える動力源となる資源の総称です。化石燃料(石油・天然ガス・石炭)が一次エネルギーの約80%を占めますが、気候変動対策により再生可能エネルギーへの転換が進んでいます。エネルギー安全保障と脱炭素化の両立が世界的課題となっています。
API比重
API比重は米国石油協会が定めた原油の密度を表す指標です。水の密度を基準として原油の軽重を数値化したもので、数値が高いほど軽質で、低いほど重質となります。この指標により原油の品質評価や取引価格の決定が行われています。
サワー原油
サワー原油は硫黄含有量が0.5%を超える高硫黄原油です。精製時に高度な脱硫処理が必要で、硫化水素による設備腐食のリスクも高くなります。処理コストは増加しますが、世界の原油埋蔵量の多くを占める重要な資源であり、スイート原油より安価で取引されるため、高度化精製所では経済的メリットがあります。
ジェット燃料/灯油
ジェット燃料と灯油は、原油精製の中間留分から生産される密接に関連した石油製品です。化学的にはほぼ同一の炭素数9-16の炭化水素混合物で、沸点範囲は150-300℃です。ジェット燃料は航空機用に厳格な品質管理が行われ、灯油は家庭用暖房や照明用として使用されます。両者は季節需要の補完関係にあります。
シェールオイル
シェールオイルは頁岩(シェール)層に含まれる非在来型原油です。水平掘削と水圧破砕技術により商業生産が可能となり、2010年代の米国エネルギー革命を主導しました。API比重35-50度の軽質原油が多く、低硫黄で高品質です。米国を世界最大の原油生産国に押し上げ、世界のエネルギー地図を塗り替えました。