Floor Price

基本概念

下限価格（Floor Price）は、商品価格の最低保証水準であり、それ以下での取引を制限または補填する仕組みです。農産物の価格支持政策、最低賃金制度、取引所のストップ安などが該当します。生産者保護、所得保障、過度な価格下落の防止を目的として設定され、市場の下支え機能を果たします。

この制度は、1930年代の大恐慌時に、農業保護政策の一環として本格的に導入されました。農産物価格の暴落から農家を守るため、政府が最低価格を保証し、市場価格がそれを下回った場合は差額を補填する仕組みが確立されました。現代でも、多くの国で何らかの形の価格支持制度が存在します。

主な特徴

所得保障機能
生産者の最低収入を保証し、生産活動の継続を可能にします。

市場介入メカニズム
政府買い上げ、補助金支払い、生産調整などにより、実効性を確保します。

財政負担の発生
価格支持には多額の財政支出が必要となり、納税者の負担となります。

国際貿易への影響
国内価格支持は、輸出補助金や輸入制限と組み合わされることが多く、貿易摩擦の原因となります。

実務での活用

農産物市場では、下限価格制度が広く活用されています。米国の農業法では、ローンレート（融資単価）が実質的な価格下限として機能し、市場価格がこれを下回ると、農家は作物を担保に融資を受け、返済する代わりに作物を政府に引き渡すことができます。

労働市場では、最低賃金が下限価格として機能します。商品の生産コストに直接影響し、特に労働集約的な農産物や繊維製品の価格形成に影響を与えます。

メリット- 効果

生産者の保護：価格下落リスクから生産者を守り、安定的な生産活動を支援します。

供給の安定確保：生産者の撤退を防ぎ、長期的な供給能力を維持します。

所得分配の改善：市場メカニズムだけでは達成できない、社会的な所得分配を実現します。

注意点- リスク

過剰生産の誘発：価格が保証されると、需要を超えた生産が行われる可能性があります。

市場の歪み：価格シグナルが機能せず、効率的な資源配分が阻害されます。

財政負担の増大：市場価格が長期間下限価格を下回ると、巨額の財政支出が必要となります。

関連用語との違い

最低価格との違い：最低価格は規制価格ですが、下限価格は保証や支持を含む broader な概念です。

ストップ安との違い：ストップ安は取引所の日次制限ですが、下限価格は政策的な価格支持も含みます。

実務ポイント- 事例

EU（欧州連合）の共通農業政策（CAP）では、長年にわたり農産物の価格支持が行われてきました。バター、脱脂粉乳、小麦などに介入価格（実質的な下限価格）が設定され、市場価格がこれを下回ると、EU当局が買い上げを行います。この結果、1980年代には「バターの山」「ワインの湖」と呼ばれる過剰在庫が発生し、制度改革が必要となりました。現在は、直接支払いへの移行が進んでいますが、価格下限の考え方は残っています。