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欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
API2(ARA Coal)は、欧州の主要石炭輸入地域であるアムステルダム(オランダ)、ロッテルダム(オランダ)、アントワープ(ベルギー)の3港(総称してARA地域)に配送される一般炭のCIF価格指標です。Argus社とIHS McCloskey社が共同で算出- 公表しており、欧州の石炭価格の最も重要なベンチマークとなっています。
この指標が重要な理由は、ARA地域が欧州の石炭輸入の玄関口だからです。これらの港には大型船が入港でき、そこから内陸水路(ライン川など)や鉄道により、ドイツ、フランス、ポーランドなどの消費地に石炭が輸送されます。欧州の電力会社や産業需要家の多くが、この指標を基準に石炭を調達しています。
他の指標との違いは、CIF(Cost, Insurance and Freight)価格である点です。これは、輸送費と保険料を含んだ価格で、買い手にとって実際の調達コストを示しています。標準品質は発熱量6,000kcal/kg(NAR)、硫黄分1%以下、灰分15%以下と定められています。
API2の価格形成は、実際の取引と市場評価に基づいています。Argus社とMcCloskey社のアナリストが、市場参加者への日々のヒアリング、実際の取引情報、ビッド- オファー価格を総合的に評価し、その日の適正価格を決定します。毎営業日の午後5時(ロンドン時間)に価格が公表され、週次- 月次の平均価格も算出されます。
市場の特徴として、供給源の多様性があります。伝統的にはロシア、コロンビア、南アフリカが主要供給国でしたが、2022年のロシア産石炭禁輸以降、米国、オーストラリア、インドネシアからの供給も増えています。この供給源の多様化により、価格形成がより複雑になっています。
価格のボラティリティも特徴的です。欧州は天然ガス価格との競合、再生可能エネルギーの変動、原子力発電の稼働状況など、多くの要因が石炭需要に影響するため、価格変動が大きくなりやすい傾向があります。2022年には、エネルギー危機により一時430ドル/トンという史上最高値を記録しました。
現在、API2は年間約2億トンの石炭取引で参照されています。欧州の石炭輸入量は年間約1.5億トンで、その大部分がこの指標を基準に取引されています。ドイツのRWE、ユニパー、フランスのEDF、ポーランドのPGEなどの大手電力会社が主要な需要家です。
2024年現在の市場環境は、脱石炭政策と供給制約の間で複雑な動きを見せています。EUは2030年までに石炭火力を大幅に削減する計画ですが、エネルギー安全保障の観点から、一部の石炭火力発電所の稼働延長も検討されています。価格は100-150ドル/トンのレンジで推移しており、歴史的には高い水準にあります。
リスク管理の手段として、ICE取引所でAPI2先物が活発に取引されています。最長5年先までの先物取引が可能で、電力会社は燃料調達コストの固定化、トレーダーは価格変動からの利益獲得を目指しています。2023年の先物取引量は、現物取引量の約3倍に達しています。
API2価格は、欧州特有のエネルギーミックスの影響を強く受けます。最大の要因は天然ガス価格(TTF)との関係です。ガス価格が上昇すると、発電所は石炭火力の稼働を増やすため、石炭需要が増加します。この「燃料転換」の境界価格は、各発電所の効率により異なりますが、概ねガス価格が25ユーロ/MWhを超えると石炭が有利になります。
炭素価格も重要な要因です。EU排出権取引制度(EU-ETS)の炭素価格が上昇すると、石炭のコスト競争力が低下します。石炭は天然ガスの約2倍のCO2を排出するため、炭素価格が100ユーロ/トンの場合、石炭の実質コストは約80ドル/トン上昇します。このため、API2価格は炭素価格と逆相関の関係にあります。
再生可能エネルギーの影響も増しています。風力- 太陽光発電の出力が低い時は、石炭火力がバックアップ電源として稼働し、需要が急増します。逆に、再エネ出力が高い時は、石炭火力は最小限の運転となります。このため、天候パターンがAPI2価格に影響を与えるようになっています。
API2市場の参加者は、物理的な取引を行うプレーヤーと金融プレーヤーに分かれます。物理的な取引では、グレンコア、トラフィギュラ、ビトールなどの国際商社が、生産地から欧州への輸送を手配し、需要家に販売しています。これらの企業は、船舶の手配、品質管理、ロジスティクスの最適化を行っています。
電力会社は最大の需要家ですが、直接取引よりも商社経由での調達が一般的です。ドイツのRWEは年間約2,000万トン、ポーランドのPGEは約1,500万トンの石炭を消費しています。これらの企業は、長期契約とスポット調達を組み合わせ、API2連動価格で購入しています。
金融市場の参加者も重要です。投資銀行、ヘッジファンド、専門のコモディティファンドが、価格変動から利益を得ようと取引しています。ただし、ESG投資の観点から、多くの金融機関が石炭関連取引から撤退しており、市場の流動性には影響が出始めています。
API2は、世界の他の石炭価格指標と連動しています。特に南アフリカのリチャーズベイ指標(API4)とは強い相関があります。南アフリカ炭の多くが欧州向けであるため、API4はAPI2から輸送費を差し引いた水準で取引される傾向があります。輸送費は通常15-20ドル/トンです。
アジア市場との関係も重要です。ニューカッスル指標が高騰すると、コロンビアや南アフリカの石炭がアジアに向かい、欧州への供給が減少してAPI2が上昇します。逆に、アジア需要が弱い時は、欧州向け供給が増えてAPI2が下落します。このような地域間の裁定により、世界の石炭価格は一定の範囲内で連動しています。
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。