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南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。
API4(Richards Bay)は、南アフリカ共和国のクワズール- ナタール州にあるリチャーズベイ石炭ターミナル(RBCT)から出荷される一般炭のFOB価格指標です。Argus社とIHS McCloskey社が共同で算出しており、南アフリカ炭の国際価格を示す最も重要な指標となっています。
この指標が重要な理由は、南アフリカが世界第5位の石炭輸出国で、特にインドと欧州にとって重要な供給源だからです。リチャーズベイ港は世界最大級の石炭輸出専用港で、年間処理能力9,100万トンを誇ります。ここから出荷される石炭の価格は、アフリカ- インド洋地域の石炭市場全体に影響を与えています。
標準品質は発熱量6,000kcal/kg(NAR)、硫黄分1%以下、灰分15%以下で、API2と同じ仕様です。これにより、欧州向けとアジア向けの価格比較が容易になり、地域間の裁定取引も活発に行われています。
API4の価格形成は、南アフリカの特殊な事情を反映しています。国内の電力不足により、政府が石炭の国内供給を優先する政策を取ることがあり、これが輸出可能量と価格に影響します。また、国営電力会社エスコムの石炭調達動向も、国内価格を通じて輸出価格に影響を与えます。
物流インフラの制約も価格形成の重要な要因です。内陸の炭鉱からリチャーズベイ港までは、専用の石炭輸送鉄道(全長580km)で運ばれますが、この鉄道の輸送能力が輸出量のボトルネックとなっています。鉄道の年間輸送能力は約8,100万トンで、これが実質的な輸出上限となっています。
価格の特徴として、API2(欧州向け)との強い相関があります。南アフリカ炭の約40%が欧州向けであるため、API4価格はAPI2から輸送費を差し引いた水準になることが多いです。ただし、インド需要が強い時は、この関係が崩れることもあります。
現在、API4は年間約8,000万トンの南アフリカ炭輸出で参照されています。最大の輸出先はインドで全体の約45%、次いで欧州が25%、パキスタン、韓国、日本などが続きます。インドにとって南アフリカ炭は、インドネシア炭と並ぶ重要な輸入炭で、沿岸部の火力発電所で広く使用されています。
南アフリカの主要生産者には、グレンコア、アングロアメリカン、エクサロ、サソルなどがあります。これらの企業は、リチャーズベイ石炭ターミナルの株主でもあり、輸出枠を保有しています。生産コストは30-50ドル/トンで、API4価格が70ドル/トンを下回ると、一部の高コスト炭鉱は赤字となります。
2024年現在、API4価格は100-120ドル/トンで推移しています。これは歴史的には高い水準ですが、2022年のピーク時(350ドル/トン)からは大幅に下落しています。インドの堅調な需要と、南アフリカの供給制約により、価格は底堅く推移しています。
API4価格の最大の決定要因は、インドの電力需要です。インドは世界第2位の石炭消費国で、年間約10億トンを消費しています。国内生産では賄いきれない約2.5億トンを輸入しており、その約20%が南アフリカ産です。インドのモンスーン期(6-9月)の水力発電量により、石炭需要が大きく変動し、API4価格に影響します。
南アフリカ国内の電力事情も重要です。エスコムの計画停電(ロードシェディング)が頻発すると、政府は石炭の国内供給を優先し、輸出制限を検討することがあります。2023年には、深刻な電力危機により、一時的に輸出許可の厳格化が実施され、API4価格が急騰しました。
為替レートの影響も無視できません。南アフリカランドは新興国通貨として変動が大きく、ランド安になると、ドル建てのAPI4価格は上昇圧力を受けます。生産者にとってはランド安は収益増につながるため、生産拡大のインセンティブとなります。
API4市場の主要プレーヤーは、南アフリカの生産者とインドの需要家です。生産者側では、グレンコアが最大手で、年間約1,500万トンを輸出しています。アングロアメリカン、エクサロがそれに続きます。これらの企業は、長期契約とスポット販売を組み合わせ、収益の最大化を図っています。
需要家側では、インドのNTPC(国営火力発電公社)、アダニパワー、タタパワーなどが大口購入者です。これらの企業は、年間契約でベース需要を確保し、スポット市場で追加調達を行っています。価格はAPI4連動が一般的ですが、固定価格契約もあります。
トレーディング会社も重要な役割を果たしています。トラフィギュラ、ビトール、グレンコアの商社部門などが、生産者から購入した石炭を、最適な需要地に配送しています。これらの企業は、複数の供給源と販売先を持ち、地域間の価格差を利用した裁定取引も行っています。
API4は、グローバルな石炭市場の一部として、他の指標と密接に関連しています。特にインドネシア炭価格との競合関係が重要です。インドの需要家は、南アフリカ炭とインドネシア炭を品質と価格で比較し、最適なミックスを決定します。一般的に、南アフリカ炭は高カロリーですが価格も高く、インドネシア炭は低カロリーですが安価です。
欧州市場との関係では、API2との価格差が輸送費を上回ると、より多くの南アフリカ炭が欧州に向かいます。逆に価格差が縮小すると、アジア向けが増えます。このような仕向地の変更により、地域間の価格バランスが保たれています。
オーストラリア炭(ニューカッスル指標)との関係も重要です。品質面では競合しますが、地理的に市場が分かれているため、直接的な競合は限定的です。ただし、中国の輸入動向によっては、両市場に大きな影響が出ることがあります。
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。