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最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
褐炭(Lignite)は、石炭の中で最も炭化度が低い種類で、泥炭から瀝青炭への移行段階にある若い石炭です。地質学的には、数千万年前の植物が地中で圧力と熱を受けて変質したもので、まだ完全な石炭化が進んでいない状態といえます。茶褐色から黒褐色の外観を持ち、時には元の木材の構造が残っていることもあります。
なぜ褐炭が重要なのかというと、世界の石炭埋蔵量の約45%を占める豊富な資源だからです。特にドイツ、ポーランド、トルコ、中国、インドネシア、インドなどに大量に賦存しており、これらの国では主要な国産エネルギー源となっています。品質は低いものの、採掘が容易で安価なため、エネルギー安全保障の観点から重要視されています。
他の石炭との最大の違いは、含水率の高さです。採掘直後の褐炭は30-50%もの水分を含んでおり、これが輸送や利用上の大きな制約となっています。また、空気中で乾燥すると自然発火しやすいという危険な性質も持っているため、取り扱いには特別な注意が必要です。
褐炭の物理的- 化学的特性は、その若い地質年代を反映しています。炭素含有量は25-35%と低く、逆に酸素と水素の含有量が高いため、単位重量あたりの発熱量は2,500-4,000kcal/kgと、瀝青炭の半分程度しかありません。さらに、高い含水率のため、実際の発熱量はさらに低くなります。
経済的な特徴として、褐炭は「採掘地消費型」の資源です。水分が多く発熱量が低いため、長距離輸送すると輸送コストが石炭の価値を上回ってしまいます。このため、褐炭は通常、炭鉱の近くに建設された専用発電所(マインマウス発電所)で消費されます。ドイツのラインラント地域やオーストラリアのラトロブバレーがその典型例です。
環境面での特徴も重要です。褐炭は単位エネルギーあたりのCO2排出量が最も多い化石燃料で、瀝青炭の約1.2倍、天然ガスの約2倍のCO2を排出します。また、硫黄分や灰分も多く含むため、大気汚染物質の排出も多くなります。このため、多くの国で褐炭火力発電所の段階的廃止が進んでいます。
現在、世界の褐炭生産量は年間約10億トンで、その大部分が生産国内で消費されています。最大の生産国はドイツで年間約1.3億トン、次いで中国、トルコ、ポーランド、インドネシアが続きます。これらの国では、褐炭は総発電量の10-40%を占める重要な電源となっています。
ドイツは褐炭利用の先進国で、ラインラント地域には世界最大級の露天掘り炭鉱があります。RWE社が運営するガルツヴァイラー炭鉱は、年間3,500万トンを生産し、隣接する発電所群に供給しています。しかし、2038年までの脱石炭政策により、段階的な生産縮小が進んでいます。
中国やインドネシアでは、褐炭の改質技術開発が進んでいます。乾燥- 成型技術により水分を減らし、輸送可能な燃料に加工する試みが行われています。インドネシアでは、褐炭をブリケット化して家庭用燃料として販売する事業も始まっています。ただし、これらの技術はまだコスト面で課題があり、大規模な商業化には至っていません。
褐炭は、新生代第三紀(約6,500万年前から230万年前)の地層に多く見られます。この時代の温暖湿潤な気候下で繁茂した森林が、河川や湖沼に堆積し、その後の地殻変動により地中に埋没しました。圧力と地熱により徐々に炭化が進みましたが、瀝青炭ほどの高温高圧を受けていないため、炭化度が低い状態で留まっています。
主要な褐炭田は、比較的若い地質構造を持つ地域に分布しています。ヨーロッパでは、ドイツのラインラント、ラウジッツ地域、ポーランドのベウハトゥフ地域が有名です。アジアでは、中国の内モンゴル自治区、インドネシアのスマトラ島、カリマンタン島に大規模な埋蔵量があります。オーストラリアのビクトリア州ラトロブバレーも世界有数の褐炭産地です。
これらの褐炭田の多くは、層厚が数十メートルに及ぶ厚い炭層を形成しており、露天掘りによる大規模採掘が可能です。ドイツのハンバッハ炭鉱は、深さ450メートル、面積85平方キロメートルという巨大な露天掘り鉱山で、年間4,000万トンの褐炭を生産しています。
褐炭の利用には多くの技術的課題があります。最大の問題は自然発火性で、採掘後に乾燥が進むと、内部の熱蓄積により自然発火することがあります。このため、採掘後は速やかに消費するか、水をかけて湿潤状態を保つ必要があります。貯炭場では、定期的な温度監視と散水が欠かせません。
燃焼特性も課題です。水分が多いため着火性が悪く、安定燃焼のために補助燃料が必要な場合があります。また、灰分が10-20%と高く、灰処理設備の負担が大きくなります。硫黄分も1-3%と高いため、排煙脱硫装置が必須です。これらの理由から、褐炭専用に設計されたボイラーが必要となります。
近年は、褐炭の高度利用技術の開発が進んでいます。予乾燥技術により水分を20%以下に減らし、発熱量を向上させる技術や、ガス化により合成ガスを製造する技術などが実用化されています。ドイツでは、褐炭から水素を製造する実証プロジェクトも進行中ですが、経済性の確立にはまだ時間がかかる見込みです。
褐炭は、気候変動対策の観点から最も問題視されている燃料の一つです。単位発電量あたりのCO2排出量は約1,200kg-CO2/MWhと、天然ガス火力の約3倍に達します。また、採掘による環境破壊も深刻で、ドイツでは褐炭採掘のために、これまでに300以上の村が移転を余儀なくされました。
各国で褐炭利用の規制が強化されています。EUは2030年までにCO2排出量を1990年比で55%削減する目標を掲げており、褐炭火力発電所の多くが閉鎖対象となっています。ドイツは2038年までに、ポーランドは2049年までに石炭火力を全廃する計画です。一方、アジアの新興国では、エネルギー需要の増大により、当面は褐炭利用が続く見込みです。
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。