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最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
瀝青炭(Bituminous Coal)は、石炭分類の中で最も一般的で経済的に重要な種類です。地質学的には、亜瀝青炭がさらに数千万年から数億年の地圧と地熱(約100-200度)を受けて変質したもので、黒色で光沢のある外観を持ちます。「瀝青」という名前は、タールのような粘性物質を含むことに由来しています。
瀝青炭が重要な理由は、エネルギー密度と採掘可能量のバランスが最も優れているからです。世界の石炭埋蔵量の約半分を占め、発熱量も実用的な範囲にあるため、発電から製鉄まで幅広い用途で使用されています。特に、粘結性を持つ瀝青炭は製鉄用コークスの原料として不可欠で、現代の鉄鋼産業を支えています。
他の石炭との違いは、その万能性にあります。褐炭や亜瀝青炭より発熱量が高く、輸送効率が良いため国際取引に適しています。一方、無煙炭ほど硬くないため採掘が容易で、コストパフォーマンスに優れています。この特性により、瀝青炭は「石炭の主役」としての地位を確立しています。
瀝青炭の物理的- 化学的特性は、その成熟した炭化度を反映しています。炭素含有量は45-86%と幅広く、これは瀝青炭がさらに細分類されるためです。揮発分は14-45%で、燃焼性と粘結性のバランスが取れています。発熱量は5,500-7,000kcal/kg(総発熱量ベース)で、効率的なエネルギー源として機能します。
用途による分類も重要な特徴です。瀝青炭は大きく「一般炭(Thermal Coal)」と「原料炭(Coking Coal)」に分けられます。一般炭は主に発電用で、高発熱量と低灰分が求められます。原料炭は製鉄用で、粘結性(加熱時に軟化- 再固化する性質)が必須条件となります。同じ瀝青炭でも、用途により全く異なる評価基準が適用されるのです。
経済的な特徴として、瀝青炭は国際商品として確立された市場を持っています。オーストラリア、インドネシア、ロシア、コロンビア、南アフリカなどが主要輸出国で、年間約10億トンが海上貿易されています。価格は品質、産地、市場により大きく異なり、高品質の原料炭は一般炭の2-3倍の価格で取引されることもあります。
現在、世界の瀝青炭生産量は年間約40億トンで、中国が約半分を生産しています。次いで、インド、米国、オーストラリア、インドネシアが主要生産国です。用途別では、約70%が発電用、20%が製鉄用、10%がその他産業用として消費されています。
日本は瀝青炭の最大輸入国の一つで、年間約1.8億トンを輸入しています。このうち約1.2億トンが一般炭(主に発電用)、約0.6億トンが原料炭(製鉄用)です。主な輸入先はオーストラリア(約60%)、インドネシア(約20%)、ロシア(約10%)で、長期契約とスポット調達を組み合わせて安定供給を図っています。
価格動向を見ると、2024年現在、高品質一般炭(6,000kcal/kg)は100-120ドル/トン、プレミアム原料炭は250-300ドル/トンで取引されています。これは歴史的には高い水準ですが、2022年のエネルギー危機時のピークからは下落しています。中国の需要動向と、環境規制の強化が価格の主要な決定要因となっています。
瀝青炭は、主に古生代石炭紀(約3.6億年前から2.9億年前)から中生代(約2.5億年前から6,600万年前)の地層に見られます。この時代の大森林が地殻変動により地中深く埋没し、長期間の高温高圧により炭化が進んだ結果、高品質の瀝青炭が形成されました。
主要な瀝青炭田は、地質学的に安定した大陸の内陸部に分布しています。米国のアパラチア炭田は、世界最高品質の原料炭を産出することで有名です。中国の山西省、陝西省、内モンゴル自治区には、巨大な瀝青炭層が広がっています。オーストラリアのボウエン盆地とシドニー盆地は、高品質の輸出用瀝青炭の主要供給源です。
採掘方法は、炭層の深さにより異なります。地表から100メートル以内の浅い炭層は露天掘りで、それ以深は坑内掘りで採掘されます。オーストラリアやインドネシアでは露天掘りが主流ですが、中国や米国東部では坑内掘りも多く行われています。坑内掘りはコストが高く危険も伴いますが、高品質炭を選択的に採掘できる利点があります。
瀝青炭の品質は、用途により異なる評価基準が適用されます。発電用では、発熱量、灰分、硫黄分、灰軟化温度が重要です。高発熱量(6,000kcal/kg以上)、低灰分(15%以下)、低硫黄(1%以下)が理想的です。灰軟化温度は、ボイラー内でのスラッギング(灰の付着)を防ぐため、1,200度以上が望ましいとされています。
製鉄用原料炭では、粘結性が最も重要な品質指標です。CSR(Coke Strength after Reaction)という指標で評価され、65以上が高品質とされます。また、灰分は10%以下、硫黄分は1%以下が求められます。これらの条件を満たす瀝青炭は限られており、「プレミアム原料炭」として高値で取引されています。
利用上の制約として、環境規制への対応があります。瀝青炭の燃焼時には、CO2、SOx、NOx、粒子状物質が排出されるため、厳格な排ガス処理が必要です。また、採掘による環境破壊、特に山頂除去採掘(MTR)による生態系への影響も問題視されています。これらの環境コストを含めると、瀝青炭の真のコストはさらに高くなります。
瀝青炭は、単位エネルギーあたりのCO2排出量が約95kg-CO2/GJと、化石燃料の中でも高い水準にあります。このため、パリ協定の目標達成に向けて、多くの国で瀝青炭火力発電所の段階的廃止が計画されています。OECD諸国では2030年代、その他の国でも2040-50年代の廃止が目標とされています。
一方で、アジアの新興国では、経済成長に伴うエネルギー需要の増大により、当面は瀝青炭への依存が続く見込みです。これらの国では、高効率技術(超々臨界圧ボイラー、IGCC等)の導入により、環境負荷の低減を図っています。また、CCS(炭素回収- 貯留)技術の実用化により、瀝青炭利用の継続を模索する動きもあります。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。