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発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
一般炭(Thermal Coal)は、主に火力発電所で電力生成に使用される石炭の総称です。「Thermal」は熱を意味し、石炭の熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが主目的であることを示しています。瀝青炭や亜瀝青炭など、様々な品質の石炭が含まれますが、共通点は発電用ボイラーでの燃焼に適していることです。
一般炭が重要な理由は、世界の電力供給の約35%を担っているからです。特にアジアでは、中国で57%、インドで44%、インドネシアで60%の電力が石炭火力発電で賄われています。安価で安定供給が可能なため、経済成長を支える基幹電源として位置づけられています。
原料炭(Coking Coal)との最大の違いは、粘結性の有無です。一般炭は粘結性を必要とせず、純粋に発熱量と燃焼特性で評価されます。このため、より幅広い品質の石炭が利用可能で、価格も原料炭より安く、大量調達が可能です。
一般炭の品質基準は、発電効率と環境規制により決まります。標準的な品質は、発熱量5,500-6,500kcal/kg(総発熱量ベース)、硫黄分1%以下、灰分15%以下です。高効率の超々臨界圧ボイラーでは、より高品質の6,000kcal/kg以上が求められます。逆に、古い亜臨界ボイラーでは、4,500kcal/kg程度でも使用可能です。
経済的特徴として、一般炭市場は規模が大きく流動性が高いことが挙げられます。年間約50億トンが消費され、うち約10億トンが国際取引されています。価格は、中国の需要、インドネシアの輸出政策、天候による電力需要などにより変動します。2024年現在、標準品質炭は100-120ドル/トンで取引されています。
環境面での特徴も重要です。一般炭火力発電は、単位電力あたりのCO2排出量が約820kg-CO2/MWhと、天然ガス火力の約2倍です。このため、多くの国で段階的廃止が計画されていますが、アジア新興国では経済性を重視して使用が続いています。
現在、世界の一般炭消費量は年間約50億トンで、その約75%を中国(28億トン)とインド(10億トン)が占めています。次いで、米国、日本、韓国、ドイツ、ポーランドなどが主要消費国です。発電以外にも、セメント製造、製紙、化学工業などで熱源として使用されています。
日本は年間約1.2億トンの一般炭を輸入し、その約70%が電力用です。主要電力会社(JERA、関西電力、九州電力等)は、長期契約により安定調達を図っています。標準的な石炭火力発電所(100万kW)は、年間約200万トンの一般炭を消費し、約70億kWhの電力を生成します。
国際取引では、オーストラリアが最大の輸出国(年間約2億トン)で、次いでインドネシア(約1.5億トン)、ロシア(約1億トン)が続きます。輸入国は、中国、インド、日本、韓国、台湾などアジアが中心で、世界の一般炭貿易の約80%を占めています。
一般炭の品質評価は、多くのパラメーターで行われます。最も重要なのは発熱量で、これにより発電効率が決まります。次に重要なのは灰分で、多いと灰処理コストが増加し、ボイラー効率も低下します。硫黄分は環境規制の対象で、多くの国で1%以下が求められています。
水分も重要な要素です。水分が多いと実効発熱量が低下し、輸送コストも増加します。インドネシア炭は水分が20-30%と高く、これを考慮した価格設定が必要です。また、自然発火のリスクも高まるため、適切な管理が求められます。
灰の性状も評価対象です。灰軟化温度が低いと、ボイラー内でスラッギング(灰の付着)が起きやすくなります。また、灰中の重金属含有量は、環境規制の対象となります。これらの品質を総合的に評価し、最適なブレンドを行うことが、効率的な発電の鍵となります。
一般炭市場は、地域により異なる特徴を持っています。アジア太平洋市場は最大で、ニューカッスル指標が価格基準となっています。欧州市場はAPI2(ARA)指標が基準で、環境規制により縮小傾向にあります。米国市場は国内完結型で、PRB炭やイリノイ盆地炭が主流です。
需給バランスは、中国の動向に大きく左右されます。中国は世界最大の生産国かつ消費国で、国内生産と輸入のバランスが少し変わるだけで、国際価格に大きな影響を与えます。2021年の電力不足時には、中国の爆買いにより価格が急騰しました。
季節変動も重要な要因です。北半球の夏季は冷房需要、冬季は暖房需要により電力消費が増加します。また、水力発電量の変動も影響し、渇水期には火力発電の稼働が増えます。これらの要因を予測し、適切な在庫管理を行うことが重要です。
一般炭の価格形成は、複数の要因が複雑に絡み合っています。基本的には需給バランスで決まりますが、投機資金の流入、為替変動、海上運賃、環境規制なども影響します。2022年のウクライナ危機時には、欧州のガス不足により石炭需要が急増し、価格が史上最高値を更新しました。
取引形態は、長期契約とスポット取引に分かれます。日本の電力会社は、安定供給を重視して長期契約が中心ですが、価格は四半期ごとに見直されることが一般的です。一方、中国やインドは、スポット市場での調達比率が高く、価格変動の影響を受けやすい構造です。
金融市場での取引も活発です。ICEやCMEで一般炭先物が取引され、価格ヘッジの手段として利用されています。また、スワップ取引により、固定価格と変動価格の交換も行われています。これらの金融商品により、価格リスクの管理が可能となっています。
一般炭火力発電は、気候変動対策の最大のターゲットとなっています。パリ協定の目標達成には、2030年までにOECD諸国、2040年までに世界全体で、石炭火力の段階的廃止が必要とされています。欧州では2030年、日本では2030年代、中国では2060年のカーボンニュートラル達成に向けた取り組みが進んでいます。
技術的な対策も進展しています。高効率技術(USC、IGCC)により、CO2排出を20-30%削減できます。また、バイオマス混焼により、実質的なCO2排出を減らす取り組みも行われています。
しかし、現実的には、アジア新興国での需要は当面続く見込みです。経済成長に伴う電力需要の増大と、再生可能エネルギーだけでは賄いきれない現実があります。このため、高効率技術の導入と、段階的な脱炭素化が現実的な道筋となっています。
燃料炭, スチームコール, Steam Coal
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。