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天然ガスを200気圧程度まで圧縮して、専用容器に充填したものです。液化させずに気体のまま圧縮するため設備が簡単で、バスやトラックの燃料として世界中で使われています。ディーゼル車より排ガスがきれいで、都市部の大気汚染対策として多くの国が導入を進めています。
CNG(Compressed Natural Gas、圧縮天然ガス)は、その名の通り天然ガスを高圧で圧縮したもので、主に自動車の燃料として使われています。通常の大気圧では気体として存在する天然ガスを、200から250気圧という高圧まで圧縮することで、体積を約200分の1にまで減らし、車両に搭載可能な量のエネルギーを蓄えることができるようにしたものです。
液化天然ガス(LNG)と混同されることがありますが、CNGは常温で圧縮しているだけで、液体にはなっていません。LNGのようにマイナス162度という極低温にする必要がないため、設備がシンプルで取り扱いも比較的容易です。ただし、同じ体積で比較すると、液体であるLNGの方が約3倍のエネルギーを貯蔵できるため、長距離輸送にはLNG、地域内での利用にはCNGという使い分けがされています。
CNGの主成分はメタンで、都市ガスとほぼ同じ組成です。実際、多くの国では都市ガスのパイプラインから直接天然ガスを取り出し、圧縮してCNGを製造しています。このため、都市ガスインフラが整備されている地域では、CNGステーションの設置が比較的容易で、普及の大きな要因となっています。
CNGを自動車燃料として使う最大のメリットは、環境性能の高さです。ディーゼル車と比較すると、窒素酸化物(NOx)の排出量が約80%少なく、粒子状物質(PM)はほとんど排出しません。ガソリン車と比べても、二酸化炭素の排出量が約25%少ないという特徴があります。このため、大気汚染が深刻な都市部では、バスやタクシーなどの公共交通機関をCNG車に切り替える動きが世界中で進んでいます。
経済性の面でも、多くの国でCNGは魅力的な選択肢となっています。天然ガスの価格は原油価格より安定しており、多くの国でガソリンやディーゼルより安い価格で供給されています。例えば、インドやパキスタンでは、CNGの価格がガソリンの半分以下という地域もあり、個人の乗用車でもCNG車が広く普及しています。
安全性についても、CNGには優れた特性があります。天然ガスは空気より軽いため、万が一漏れても上方に拡散し、滞留しにくいという特徴があります。また、発火点が約650度とガソリンの約300度より高く、自然発火のリスクが低いのも利点です。CNG容器は厳格な安全基準に基づいて製造され、定期的な検査も義務付けられているため、適切に管理されていれば非常に安全な燃料といえます。
CNG車の普及は地域によって大きな差があります。最も普及が進んでいるのは、中国、イラン、インド、パキスタン、アルゼンチンなどで、これらの国では数百万台規模のCNG車が走っています。特に都市部の路線バスやタクシー、配送用トラックなどの商用車での採用が進んでおり、大気汚染対策と燃料費削減の両立を図っています。
中国では、2023年時点で約800万台のCNG車が運行されており、世界最大のCNG車保有国となっています。北京、上海、重慶などの大都市では、路線バスの大半がCNG車に置き換わっており、タクシーも順次CNG化が進んでいます。政府の強力な環境政策と補助金制度が、この急速な普及を支えています。
ヨーロッパでは、イタリアが古くからCNG車の普及に力を入れており、一般の乗用車でも広く使われています。イタリアには約1500か所のCNGステーションがあり、100万台以上のCNG車が走っています。ドイツも約900か所のステーションを持ち、フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、アウディなどがCNG車を製造販売しています。これらの国では、バイオメタン(生物由来のメタン)も混合して使用し始めており、下水処理場や農業廃棄物から作られるバイオメタンにより、さらに環境負荷を低減しています。
CNGインフラの中心は充填ステーションです。CNG充填ステーションには、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、パイプラインから供給される天然ガスを、その場で圧縮して車両に充填する「母店方式」です。もう一つは、別の場所で圧縮したCNGをトレーラーで運んできて、ステーションの貯蔵容器に移してから車両に充填する「子店方式」です。
充填設備の技術も進化しています。最新の高速充填設備では、乗用車なら3-5分程度で満タンにできます。これは、複数段階の圧縮機と大容量の蓄圧容器を組み合わせることで実現されています。充填時には、ガスの圧縮による温度上昇を管理するため、冷却システムも装備されています。大型バスやトラックでは10-15分程度かかることもありますが、これでも実用上は十分な速さです。
家庭用の小型充填装置も実用化されています。これは、家庭の都市ガス配管に接続し、夜間に時間をかけて自家用車のCNGタンクを充填するもので、イタリアやアメリカの一部で使用されています。充填には6-8時間かかりますが、夜間電力を使用することで経済的であり、スタンドに行く手間も省けます。
現在のCNG車は、技術的に大きく進歩しています。初期のCNG車は、ガソリン車を改造したものが多く、出力や燃費の面で課題がありましたが、最新のCNG専用エンジンでは、天然ガスの特性を最大限に活かした設計により、ディーゼルエンジンに匹敵する熱効率を実現しています。
特に注目されているのが、天然ガスの高いオクタン価(ノッキングしにくい性質)を活かした高圧縮比エンジンです。ガソリンエンジンでは圧縮比を上げるとノッキングが起きやすくなりますが、天然ガスではその心配が少ないため、圧縮比を13-14まで高めることができ、熱効率40%以上を達成しています。また、直噴技術やターボチャージャーとの組み合わせにより、小排気量でも十分な出力を得られるようになっています。
CNG容器の技術も大きく進歩しています。従来の鋼鉄製容器(タイプ1)から、カーボンファイバーを使った複合材料容器(タイプ4)へと進化し、重量が約70%軽減されました。これにより、車両の積載量や燃費が改善され、CNGの欠点の一つだった航続距離の短さも改善されています。最新の乗用車用CNG車では、一回の充填で400-500キロメートル走行できるものも登場しています。
CNG導入の経済性は、現在の市場で実証されています。商用車での実例を見ると、年間走行距離が5万キロメートルのバスの場合、ディーゼルと比較して燃料費を年間200-300万円削減できるケースが報告されています。CNG車両の追加コスト(約500万円)を考慮しても、2-3年で投資回収が可能です。
環境価値も定量的に評価されています。世界保健機関(WHO)の調査によると、都市部でのディーゼル車からCNG車への転換により、PM2.5濃度が10-20%低下し、呼吸器疾患による入院患者数が減少したという報告があります。また、温室効果ガス削減の観点でも、ライフサイクル全体でCNG車はディーゼル車より約20%、ガソリン車より約25%少ないCO2排出量となっています。
多くの国では、これらの環境- 経済効果を認識し、CNG車への転換を政策的に支援しています。インドでは、デリーなどの大都市でCNG以外の商用車の新規登録を禁止し、中国では、CNG車購入に対して車両価格の10-20%の補助金を提供しています。これらの政策により、CNG車の普及が加速し、大気質の改善と燃料輸入依存度の低減が実現されています。
現在の市場において、CNGは他の代替燃料と競合しています。電気自動車は走行時の排出がゼロですが、大型トラックや長距離バスでは、バッテリーの重量(数トン)と充電時間(数時間)が実用上の課題となっています。一方、CNGトラックは、ディーゼル車とほぼ同等の積載量と航続距離を持ち、充填時間も15分程度で済みます。
LNGトラックも長距離輸送で使われ始めていますが、極低温設備が必要なため、初期投資がCNGより高くなります。ただし、航続距離は1000キロメートル以上と長く、長距離トラック向けに適しています。実際の運用では、都市内配送にはCNG、長距離輸送にはLNGという使い分けが進んでいます。
バイオ燃料やバイオディーゼルも選択肢ですが、食料との競合や土地利用の問題があります。これに対して、廃棄物から作るバイオメタンは、これらの問題を回避でき、既存のCNGインフラでそのまま使えるという大きな利点があります。スウェーデンでは、CNG供給の約60%がバイオメタンとなっており、実質的にカーボンニュートラルな輸送を実現しています。
NBP
英国の天然ガス取引の中心となる仮想取引拠点で、1996年に設立された欧州で最も歴史ある市場の一つです。北海ガス田からの供給とLNG輸入の両方を扱い、英国のガス価格を決定する重要な役割を果たしています。欧州大陸のTTFと並んで、国際的な天然ガス価格の重要な指標として世界中で参照されています。
LNG(液化天然ガス)
天然ガスをマイナス162度まで冷却して液体にしたもので、体積が600分の1になるため船での大量輸送が可能になります。日本は世界最大のLNG輸入国として、中東やオーストラリアから年間約7000万トンを調達しています。パイプラインがない地域でも天然ガスを利用できる画期的な技術として、世界のエネルギー貿易を大きく変えました。
湿性ガス
天然ガスの中でもプロパンやブタンなどの液化しやすい成分を豊富に含んでいるガスのことです。これらの成分は冷却や圧縮によって分離され、LPGや石油化学原料として高値で取引されるため、ガス田の収益性を大きく向上させます。近年のシェール革命により、ウェットガスの生産が急増し、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えています。
乾性ガス
天然ガスの中でもメタンが90%以上を占め、液体になりやすい成分がほとんど含まれていないガスのことです。そのままパイプラインで輸送でき、都市ガスや発電の燃料として直接使えるため、最も扱いやすい天然ガスといえます。処理コストが低く経済性に優れていることから、世界中で広く利用されています。
パイプラインガス
パイプラインを通じて気体のまま輸送される天然ガスで、世界のガス貿易の約7割を占める最も基本的な輸送方法です。ロシアから欧州、カナダから米国など、陸続きの地域では直径1メートル以上の巨大パイプラインが何千キロも延びています。LNGと違って液化設備が不要なため、安定的で低コストな供給が可能です。
ヘンリーハブ
アメリカのルイジアナ州にある天然ガスパイプラインの集積地で、北米の天然ガス価格を決める最も重要な指標です。ここで形成される価格はNYMEX先物の基準となり、世界中のLNG取引でも参照されています。9本の州間パイプラインが交差し、日量20億立方フィートのガスが行き交う巨大なハブです。