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天然ガスをマイナス162度まで冷却して液体にしたもので、体積が600分の1になるため船での大量輸送が可能になります。日本は世界最大のLNG輸入国として、中東やオーストラリアから年間約7000万トンを調達しています。パイプラインがない地域でも天然ガスを利用できる画期的な技術として、世界のエネルギー貿易を大きく変えました。
LNG(Liquefied Natural Gas、液化天然ガス)は、天然ガスを極低温のマイナス162度まで冷却することで液体に変えたものです。この温度は、メタンが常圧で液体として存在できる沸点であり、この状態では体積が気体の約600分の1にまで縮小します。つまり、LNG船1隻で、気体のままでは600隻分に相当する量の天然ガスを運ぶことができるのです。
なぜわざわざ極低温にしてまで液化するのかというと、天然ガスの産地と消費地が海を隔てて離れていることが多いためです。パイプラインは陸続きでないと建設できませんし、海底パイプラインも深い海や長距離では現実的ではありません。LNG技術により、中東やオーストラリアの天然ガスを、日本や韓国のような島国でも利用できるようになったのです。この技術がなければ、多くの国は天然ガスという クリーンなエネルギー源を利用できなかったでしょう。
LNGの最も重要な特徴は、その極めて低い温度です。マイナス162度という温度は、南極の最低気温記録(マイナス89度)よりもはるかに低く、特殊な断熱技術と材料が必要になります。LNGタンクは魔法瓶のような二重構造になっており、内側のタンクはニッケル鋼という極低温でも脆くならない特殊な金属で作られています。外側との間は真空または断熱材で満たされ、外部からの熱の侵入を最小限に抑えています。
液化の過程で、天然ガスに含まれる不純物はほとんど除去されます。水分、二酸化炭素、硫黄分などは液化前に取り除かれるため、LNGは非常に純度の高いエネルギー源となります。再ガス化後のガスは、メタン純度が95%以上という高品質なものになり、そのまま都市ガスや発電用燃料として使用できます。また、液体の状態では無色透明で、仮に漏れても地面に溜まることなく、すぐに気化して上空に拡散するため、安全性も比較的高いといえます。
経済的な特徴として、LNGプロジェクトは巨額の初期投資を必要とします。液化プラント、専用船、受入基地を合わせると、一つのプロジェクトで1兆円を超えることも珍しくありません。このため、通常は20年以上の長期契約で投資を回収する仕組みになっており、売り手と買い手の双方が長期的な関係を構築することになります。
現在、世界のLNG貿易量は年間約4億トンに達しており、これは世界の天然ガス消費量の約12%に相当します。最大の輸出国はオーストラリアとカタールで、それぞれ年間約8000万トンを輸出しています。アメリカもシェール革命以降、急速に輸出を拡大し、2023年には世界最大の輸出国となりました。一方、輸入側では日本が年間約7000万トン、中国が約7500万トンと、アジアが世界需要の約7割を占めています。
日本の場合、国内で消費される天然ガスのほぼ100%がLNGとして輸入されています。全国に約30か所のLNG受入基地があり、そこで再ガス化された天然ガスが、都市ガスとして家庭に供給されたり、発電所で電力に変換されたりしています。東京湾、伊勢湾、大阪湾といった大消費地に近い場所に受入基地が集中しており、効率的な供給体制が構築されています。
LNGの価格は、地域によって大きく異なるのが特徴です。アジア向けのLNG価格は、伝統的に原油価格に連動する方式(JCC: Japan Crude Cocktail連動)が主流でしたが、近年はスポット市場も発達し、JKM(Japan Korea Marker)という指標価格が広く使われるようになりました。2022年のエネルギー危機時には、欧州とアジアでLNGの争奪戦が起き、価格が通常の10倍以上に跳ね上がることもありました。
LNGの生産は、まず天然ガスの前処理から始まります。ガス田から産出された天然ガスには、水分、二酸化炭素、硫化水素、水銀などの不純物が含まれており、これらは液化前に除去する必要があります。特に水分と二酸化炭素は、低温で固体になってプラントの配管を詰まらせる恐れがあるため、徹底的に取り除かれます。
液化プロセスの中心は、カスケード方式と呼ばれる段階的な冷却システムです。まず、プロパンでマイナス35度程度まで冷やし、次にエチレンでマイナス100度まで、最後にメタン自身でマイナス162度まで冷却します。各段階で使用される冷媒は、圧縮と膨張のサイクルを繰り返すことで冷却効果を生み出します。最新のプラントでは、混合冷媒を使った効率的なプロセスも採用されており、エネルギー消費を最小限に抑える工夫がなされています。
一つの液化プラント(トレイン)の標準的な生産能力は、年間400-500万トンです。大規模なLNGプロジェクトでは、複数のトレインを並列に建設し、年間2000万トン以上の生産能力を持つものもあります。カタールのラスガス、オーストラリアのゴーゴンなどが代表例で、これらの巨大プロジェクトは、一国のエネルギー供給を支える規模となっています。
LNG輸送の主役は、専用のLNGタンカーです。標準的な大きさは、貨物容量が15-17万立方メートル(LNG約7万トン)で、全長約300メートル、幅約50メートルという巨大な船です。船内には球形(モス型)または箱型(メンブレン型)の特殊なタンクが4-5個設置されており、それぞれが独立してLNGを貯蔵できます。
輸送中も少しずつ熱が侵入し、LNGの一部が蒸発します(ボイルオフガス)。この蒸発率は1日あたり0.1-0.15%程度で、長距離航海では無視できない量になります。最新のLNG船では、このボイルオフガスを船の推進用燃料として利用したり、再液化装置で液体に戻したりすることで、輸送効率を高めています。
受入基地では、LNGは断熱された地上タンクまたは地下タンクに貯蔵されます。日本の基地では、容量18-25万キロリットルの地上タンクが主流で、一つの基地に複数のタンクを持つことで供給の安定性を確保しています。再ガス化は、海水または空気を使ってLNGを温める方式が一般的で、この過程で大量の冷熱が発生します。この冷熱は、空気の液化、冷凍倉庫、化学プラントなどで有効活用されており、エネルギーの無駄を最小限に抑える工夫がなされています。
LNGプロジェクトの経済性は、規模の経済が強く働きます。液化プラント、輸送船、受入基地のすべてに巨額の投資が必要なため、年間取扱量が数百万トン以上でないと採算が取れません。このため、売主と買主は通常20-25年の長期契約を結び、テイク- オア- ペイ条項(引き取り義務条項)により、安定的な収入を確保します。
しかし、この長期契約中心の取引構造には課題もあります。需要の変動に柔軟に対応できない、新規参入が困難、価格の透明性が低いといった問題があり、近年はスポット取引の拡大により、市場の流動性向上が図られています。2023年時点で、世界のLNG貿易の約4割がスポット- 短期契約となっており、市場の柔軟性は確実に高まっています。
環境面では、LNGは石炭に比べて燃焼時のCO2排出量が約半分という利点がありますが、液化- 輸送- 再ガス化の過程でエネルギーを消費するため、ライフサイクル全体では必ずしも理想的ではありません。また、メタンリークの問題も指摘されており、サプライチェーン全体での排出削減が課題となっています。現在、カーボンニュートラルLNGと呼ばれる、植林や再生可能エネルギー証書でCO2を相殺した商品も登場していますが、まだ市場規模は限定的です。
NBP
英国の天然ガス取引の中心となる仮想取引拠点で、1996年に設立された欧州で最も歴史ある市場の一つです。北海ガス田からの供給とLNG輸入の両方を扱い、英国のガス価格を決定する重要な役割を果たしています。欧州大陸のTTFと並んで、国際的な天然ガス価格の重要な指標として世界中で参照されています。
湿性ガス
天然ガスの中でもプロパンやブタンなどの液化しやすい成分を豊富に含んでいるガスのことです。これらの成分は冷却や圧縮によって分離され、LPGや石油化学原料として高値で取引されるため、ガス田の収益性を大きく向上させます。近年のシェール革命により、ウェットガスの生産が急増し、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えています。
乾性ガス
天然ガスの中でもメタンが90%以上を占め、液体になりやすい成分がほとんど含まれていないガスのことです。そのままパイプラインで輸送でき、都市ガスや発電の燃料として直接使えるため、最も扱いやすい天然ガスといえます。処理コストが低く経済性に優れていることから、世界中で広く利用されています。
パイプラインガス
パイプラインを通じて気体のまま輸送される天然ガスで、世界のガス貿易の約7割を占める最も基本的な輸送方法です。ロシアから欧州、カナダから米国など、陸続きの地域では直径1メートル以上の巨大パイプラインが何千キロも延びています。LNGと違って液化設備が不要なため、安定的で低コストな供給が可能です。
ヘンリーハブ
アメリカのルイジアナ州にある天然ガスパイプラインの集積地で、北米の天然ガス価格を決める最も重要な指標です。ここで形成される価格はNYMEX先物の基準となり、世界中のLNG取引でも参照されています。9本の州間パイプラインが交差し、日量20億立方フィートのガスが行き交う巨大なハブです。
CNG(圧縮天然ガス)
天然ガスを200気圧程度まで圧縮して、専用容器に充填したものです。液化させずに気体のまま圧縮するため設備が簡単で、バスやトラックの燃料として世界中で使われています。ディーゼル車より排ガスがきれいで、都市部の大気汚染対策として多くの国が導入を進めています。