コーニッシュ・フィッシャー展開(Cornish-Fisher Expansion)は、歪度と尖度を考慮してVaRを調整する統計手法です。商品取引では正規分布から乖離する商品価格分布のリスク評価において、より精緻な損失推定を可能にします。
コーニッシュ- フィッシャー展開(Cornish-Fisher Expansion)は、確率分布の分位点を、正規分布の分位点と高次モーメント(歪度、尖度等)を用いて近似する数学的手法です。1937年にE.A. CornishとR.A. Fisherによって開発されました。金融リスク管理では、資産リターンの非正規性を考慮してVaRを調整するために使用されます。標準的な展開式は、z_cf = z_α + (z_α^2-1)S/6 + (z_α^3-3z_α)(K-3)/24 - (2z_α^3-5z_α)S^2/36で、z_αは正規分布の分位点、Sは歪度、Kは尖度です。商品取引では、価格分布の非対称性と厚いテールを適切に反映したリスク評価に不可欠です。
コーニッシュ- フィッシャー展開は、エッジワース展開の逆変換として導出されます。確率変数Xの分布関数F(x)を、標準正規分布Φ(x)と高次キュムラントを用いて展開し、その逆関数を求めることで分位点の近似式が得られます。4次までの展開では、3次(歪度)と4次(尖度)のキュムラントが使用されます。より高次の展開も可能ですが、推定誤差の累積と計算の複雑さから、実務では4次までが一般的です。展開の収束性は、分布の裾の重さと要求される精度に依存します。
商品価格は顕著な非正規性を示すため、コーニッシュ- フィッシャー展開は特に有効です。農産物では天候リスクによる正の歪度、エネルギーでは供給ショックによる急騰、金属では在庫逼迫時のスパイクが観察されます。これらの特性を無視した正規分布仮定のVaRは、大幅にリスクを誤評価する可能性があります。展開を用いることで、上方リスクと下方リスクの非対称性を定量的に捉え、より現実的なリスク評価が可能となります。特に、テールリスクが重要な商品デリバティブ取引では不可欠なツールです。
コーニッシュ- フィッシャー展開を用いたVaR計算は、以下の手順で行います。まず、過去のリターンデータから平均、標準偏差、歪度、尖度を推定します。次に、要求される信頼水準(例:99%)に対応する正規分布の分位点z_αを求めます。展開式を用いて修正分位点z_cfを計算し、最後にVaR = μ + z_cf × σでVaRを算出します。負の歪度は下方リスクを増大させ、高い尖度はテールリスクを増加させるため、修正VaRは通常のVaRより保守的になることが多いです。
高次モーメントの推定には技術的課題があります。歪度と尖度は外れ値に敏感で、小標本では推定誤差が大きくなります。対処法として、ロバスト推定量(トリム平均、ウィンザライズ等)、ブートストラップ法による信頼区間推定、ベイズ推定による事前情報の活用等があります。また、時変する高次モーメントへの対応として、ローリングウィンドウ推定、GARCH型モデルの拡張、レジームスイッチングモデル等が用いられます。推定期間の選択も重要で、市場環境の変化と推定精度のトレードオフを考慮する必要があります。
コーニッシュ- フィッシャー展開の精度は、分布の特性と信頼水準に依存します。中程度の非正規性(|S|<2、K<7)では良好な近似を提供しますが、極端な分布では精度が低下します。信頼水準が95-99%の範囲では実用的ですが、99.9%を超える極端な分位点では誤差が拡大します。また、展開は局所的な近似であり、分布全体の形状を完全に捉えることはできません。多峰性分布や離散的ジャンプがある場合は、適用が困難です。これらの限界を理解し、他の手法と併用することが重要です。
コーニッシュ- フィッシャー展開は様々な発展を遂げています。多変量への拡張では、ポートフォリオレベルでの共歪度、共尖度を考慮した展開が開発されています。半パラメトリック手法との組み合わせにより、分布の裾部分をより精緻にモデル化できます。また、極値理論との統合により、通常領域とテール領域で異なるアプローチを適用する hybrid モデルも提案されています。リスク測度の一般化として、スペクトラルリスク測度への展開の応用も研究されています。
コンポーネントVaR
コンポーネントVaRは、各資産がポートフォリオ全体のVaRに寄与する部分リスクを示し、限界VaRとも呼ばれます。商品取引では個別商品のリスク寄与度を定量化し、ポートフォリオ最適化とリスク配分の意思決定に重要な指標として活用されます。
モンテカルロVaR
モンテカルロVaR(Monte Carlo VaR)は、乱数シミュレーションで多数シナリオを生成しVaRを計算する手法です。商品取引では複雑なデリバティブやパス依存型オプションを含むポートフォリオで、非線形リスクの正確な評価を可能にします。
保有期間
保有期間(Holding Period)は、金融資産を購入してから売却するまでの期間を示します。長期投資、短期取引など投資戦略によって保有期間は異なり、課税やリスク評価にも影響します。
ヒストリカルVaR
ヒストリカルVaR(Historical VaR)は、過去の実際の市場データから損益分布を作成しVaRを計算する手法です。商品取引では分布仮定が不要で極端な市場変動も反映できるため、複雑な商品ポートフォリオのリスク評価に広く活用されています。
信頼水準
信頼水準は、VaR計算における確率水準で、一般的に95%や99%が使用され、統計的信頼性を表します。商品取引では規制要件やリスク許容度に応じて適切な水準を選択し、リスク評価の精度と保守性のバランスを取った管理基準として機能します。
ストレスVaR
ストレスVaR(Stressed VaR)は、市場ストレス期間のデータを用いて計算した保守的なVaR推定値です。商品取引では平常時のVaRと併用することで、市場危機時の潜在的損失を把握し、より堅固なリスク管理体制の構築に活用されています。