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予測不能な事態により契約義務が免除される条項
不可抗力(Force Majeure)とは、契約当事者の合理的な制御を超えた予測不能な事態により、契約義務の履行が不可能または著しく困難になった場合に、当該義務の履行を免除または延期する法的概念です。天災、戦争、政府の行為、ストライキなど、人間の力では防ぐことのできない事象を指します。商品取引、特に国際商品取引において重要な免責条項として広く活用され、契約当事者を予期しないリスクから保護する役割を果たしています。
不可抗力の概念は、古代ローマ法に起源を持ちます。「神の行為(Act of God)」として、人間の制御を超えた自然現象による損害について責任を免除する考え方が発達しました。
中世ヨーロッパでは、商法の発展とともに、商取引における不可抗力免責が体系化されました。特に海上貿易において、嵐や海賊による損失を免責する慣行が確立されました。
近代では、1804年のナポレオン民法典で不可抗力の概念が明文化され、その後各国の法制度に影響を与えました。20世紀以降は、戦争、革命、政府規制などの社会的事象も不可抗力として認識されるようになりました。
予見不可能性では、契約締結時に当該事象の発生を合理的に予見することができなかったことが要求されます。過去に類似事象が発生していた場合、予見可能性が問題となります。
回避不可能性により、当事者が合理的な努力を行っても当該事象を回避できなかったことが必要です。適切な予防措置を講じていたかが判断基準となります。
制御不可能性では、当該事象が当事者の合理的な制御の範囲を超えていることが要求されます。当事者の行為や不作為が原因である場合は不可抗力に該当しません。
履行阻害性により、当該事象が契約義務の履行を客観的に不可能または著しく困難にしていることが必要です。単なる経済的困難は通常不可抗力に該当しません。
自然災害には、地震、津波、洪水、台風、火山噴火などが含まれます。これらは最も古典的な不可抗力事象として広く認められています。
戦争・テロでは、宣戦布告された戦争、内戦、テロ攻撃、暴動などが該当します。平時には予見困難な事象として扱われます。
政府行為には、法令の制定・改廃、輸出入禁止措置、制裁措置、非常事態宣言などがあります。規制環境の急激な変化が対象となります。
労働争議では、ストライキ、ロックアウト、労働者の集団的行動などが含まれます。ただし、当事者自身の労働争議は除外される場合があります。
インフラ障害には、電力供給停止、通信網障害、交通機関の麻痺などがあります。社会基盤の機能停止による履行阻害が対象です。
物理的商品取引では、生産設備の不可抗力による停止、原料調達の不可能、輸送手段の途絶などが典型例です。
エネルギー取引において、発電所の事故、パイプラインの破損、精製設備の停止などが不可抗力として主張される場合があります。
農産物取引では、異常気象による作物被害、病害虫の大発生、政府の緊急輸入規制などが対象となります。
鉱物資源取引において、鉱山事故、採掘権の取消し、輸出許可の停止などが不可抗力事象として扱われます。
定義条項により、当該契約において不可抗力とみなす事象を具体的に列挙します。包括的な定義と具体例の両方を記載することが一般的です。
通知義務では、不可抗力事象が発生した場合の相手方への通知期限と方法を規定します。迅速な通知が免責の要件となります。
軽減義務により、不可抗力事象の影響を最小限に抑える努力義務を課します。合理的な代替手段の模索が求められます。
効果条項では、不可抗力事象の発生により契約義務がどのように変更されるかを規定します。履行延期、一部免責、契約解除などの選択肢があります。
立証責任は、不可抗力を主張する当事者にあります。事象の発生、要件の充足、因果関係を証明する必要があります。
証拠収集では、気象データ、政府発表、報道記録、専門機関の報告書などの客観的証拠が重要です。
第三者証明により、商工会議所、業界団体、政府機関などの証明書が証拠として活用される場合があります。
履行義務の免除により、不可抗力期間中の契約義務履行が免除されます。ただし、完全免除か一部免除かは事案により異なります。
損害賠償責任の免除では、不可抗力による契約不履行について損害賠償責任が免除されます。
契約解除権により、不可抗力が長期間継続する場合、契約を解除できる場合があります。
英米法系では、「Frustration of Contract」の概念により、契約の基礎的前提の変更による契約終了が認められます。
大陸法系では、「事情変更の原則」により、契約締結後の予期しない事情変更による契約内容の修正が可能です。
国際商事仲裁では、UNIDROIT原則やCISGなどの国際的ルールが適用される場合があります。
COVID-19パンデミックにより、感染症の世界的流行が新たな不可抗力事象として注目されました。各国の対応措置の違いが法的解釈に影響を与えています。
気候変動の影響により、従来「異常」とされた気象現象の頻発が予見可能性の判断に影響を与えています。
サイバー攻撃などの新しい脅威が、現代的な不可抗力事象として認識されつつあります。
保険との関係では、不可抗力事象による損失を保険でカバーすることで、リスクの分散が図られます。
代替手段の確保により、不可抗力事象発生時の代替調達先、代替輸送手段の事前確保が重要です。
契約の分散では、複数の供給者、複数の仕向地への分散により、不可抗力リスクを軽減できます。
不可抗力は、予測不能な事象から契約当事者を保護する重要な法的概念として、国際商品取引において不可欠な役割を果たしています。
納入条件
売買契約において、商品の所有権移転時期、危険負担の移転時点、運賃や保険料の負担区分、納入場所、納期などを定めた条件のことです。貿易取引ではインコタームズがよく用いられます。
計画船積
売買契約や生産計画に基づき、特定の商品を特定の時期に出荷(船積みまたは他の輸送手段での発送)する予定のこと、またはその予定数量・内容を指します。実際の出荷実績と対比されます。
暦月渡し
商品の引き渡し時期を、特定の日付ではなく、「〇月渡し」のように暦の月単位で指定する取引条件のことです。その月のいつ引き渡されるかは、さらに詳細な取り決めによります。
受渡方法
商品や証券などの取引において、売り手から買い手へ対象物を引き渡す具体的な方法や手続きのことです。現物受渡、差金決済、書類上の受渡など、市場や契約によって定められます。
仲裁条項
契約に関して将来紛争が生じた場合に、裁判所の訴訟ではなく、仲裁機関などの第三者(仲裁人)による仲裁手続きによって最終的な解決を図ることを、当事者間であらかじめ合意しておく契約条項のことです。
リオープナー条項(契約見直し条項)
長期契約において、契約期間中に特定の事象(市場価格の大幅変動、法改正など)が発生した場合に、当事者の一方または双方が契約条件(特に価格)の見直し協議を開始できる権利を定めた条項です。