キビ（Millet）は、アジア、アフリカを中心に栽培される小粒の雑穀類の総称であり、乾燥地帯や痩せた土地でも栽培可能な耐乾性作物として、世界の食料安全保障において重要な役割を果たしています。トウジンビエ、アワ、キビ、シコクビエなど複数の種を含み、それぞれが異なる栄養特性と用途を持ちます。高い栄養価（タンパク質、ミネラル、ビタミンB群）とグルテンフリーの特性により、健康食品市場での需要が急速に拡大しており、商品市場では「オーファン作物」から主要穀物を補完する重要な商品へと位置づけが変化しています。気候変動への適応作物として、また持続可能な農業の推進作物として、その重要性は今後さらに高まることが予想されています。

キビの種類と特性は多様です。パールミレット（トウジンビエ）は最も広く栽培され、高タンパク質と鉄分を含有します。フィンガーミレット（シコクビエ）はカルシウム含有量が穀物中最高レベルです。フォックステイルミレット（アワ）は中国で主に栽培され、消化が良好です。プロソミレット（キビ）は短い生育期間（60-90日）で収穫可能です。各種は異なる気候条件に適応し、地域の食文化と密接に結びついています。

栽培と生産の特徴として、年間降水量200-600mmの半乾燥地域でも栽培可能です。生育期間が短く（60-120日）、二期作や間作が可能です。肥料要求量が少なく、低投入農業に適しています。病害虫への抵抗性が高く、農薬使用量を削減できます。C4植物として高い光合成効率を持ち、水利用効率が優れています。小規模農家でも栽培可能で、機械化が不要な場合が多いです。

世界市場と貿易動向において、インドが世界最大の生産国で、年間約1,100万トンを生産します。アフリカ（ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ）が主要生産地域です。中国も重要な生産・消費国として位置づけられます。国際貿易量は限定的で、主に地域内消費が中心です。ただし、健康食品としての輸出が欧米向けに増加傾向にあります。価格は地域市場で決定され、国際価格指標は未発達です。

栄養価値と健康効果により需要が拡大しています。グルテンフリー食品として、セリアック病患者や健康志向の消費者に人気です。低グリセミック指数により、糖尿病予防食として注目されています。豊富な食物繊維により、消化器系の健康に貢献します。抗酸化物質を含有し、生活習慣病予防効果が期待されます。必須アミノ酸のバランスが良好で、完全タンパク質源となります。

用途と加工製品は多岐にわたります。主食として、粥、パン、麺類などに加工されます。飼料として、家禽類の飼料に高い栄養価で利用されます。醸造原料として、伝統的な酒類やビールの原料となります。製粉により、グルテンフリー小麦粉代替品として使用されます。スナック食品、シリアル、栄養補助食品への加工が増加しています。工業用途では、でんぷん、接着剤の原料としても利用されます。

市場価格と変動要因として、主要穀物（小麦、米、トウモロコシ）との代替関係が価格に影響します。モンスーンの状況が生産量と価格を大きく左右します。政府の買い上げ政策と補助金が市場価格に影響します。健康食品ブームによる需要増が価格上昇要因となっています。輸送インフラの未整備により、地域間価格差が大きくなります。情報の非対称性により、価格発見機能が不完全です。

投資機会と課題として、気候変動対応作物としての将来性が高く評価されています。栄養改善プログラムでの採用により、安定需要が期待されます。付加価値製品開発により、高収益化の可能性があります。ただし、市場の細分化と標準化の遅れが課題です。サプライチェーンの未整備により、流通効率が低い状況です。国際市場での認知度向上が必要とされています。

今後の展望として、国連が2023年を「国際雑穀年」と定め、認知度が向上しています。気候スマート農業の推進により、栽培面積の拡大が予想されます。品種改良により、収量と栄養価の向上が期待されます。バリューチェーンの整備により、市場アクセスが改善されることが期待されます。先物市場の創設により、価格発見機能が向上する可能性があります。持続可能な開発目標（SDGs）への貢献作物として、投資と支援が増加することが予想されています。