読み込み中...
最も炭化度が高い最高級石炭で、炭素含有量86%以上、発熱量7,000kcal/kg以上の高品質炭です。燃焼時の煙が少なく、火力が強いため、製鉄の還元剤や高級燃料として使用されます。中国、ロシア、ベトナムが主要産地ですが、埋蔵量は全石炭の1%未満と希少です。
無煙炭(Anthracite)は、石炭の中で最も炭化度が進んだ最高品質の石炭です。数億年の地質学的時間をかけて、極めて高い圧力と温度(200度以上)により、ほぼ純粋な炭素の塊へと変化したものです。金属のような光沢を持つ黒色の外観で、硬く、叩くと金属音がすることから「石炭のダイヤモンド」とも呼ばれます。
無煙炭が特別な理由は、その希少性と優れた燃焼特性にあります。世界の石炭埋蔵量のわずか1%未満しか存在せず、しかも限られた地域にしか産出しません。燃焼時にほとんど煙を出さず、非常に高い熱量を発生させるため、特殊な用途で重宝されています。家庭用暖房から工業用高温プロセスまで、クリーンで高効率な熱源として使用されています。
他の石炭との最大の違いは、その純度です。炭素含有量が86-98%と極めて高く、揮発分は2-14%と非常に少ないです。このため、着火は困難ですが、一度火がつくと長時間安定して燃焼し、灰もほとんど残しません。この特性により、無煙炭は「究極の石炭」として特別な地位を占めています。
無煙炭の物理的特性は、他の石炭とは一線を画しています。モース硬度は2.5-3.0と石炭の中で最も硬く、比重も1.4-1.7と最も重いです。この硬さのため、採掘や粉砕にはより多くのエネルギーが必要ですが、輸送や貯蔵時の粉化が少ないという利点もあります。
燃焼特性も独特です。発火点が約500-600度と高く、着火には時間がかかりますが、一度燃え始めると7,000-8,000kcal/kgという高い発熱量を長時間維持します。燃焼時の炎は短く青白い色で、ほとんど煙を出しません。また、硫黄分が0.5%以下と低く、環境負荷が比較的少ないのも特徴です。
経済的には、無煙炭は「プレミアム燃料」として位置づけられています。一般炭の2-3倍の価格で取引されることも珍しくありません。しかし、その希少性と特殊な用途により、安定した需要があります。特に、品質を重視する用途では、高価格でも無煙炭が選ばれています。
現在、世界の無煙炭生産量は年間約5,000万トンで、その約80%を中国が生産しています。次いで、ロシア、ベトナム、ウクライナが生産国となっています。中国では山西省と貴州省が主要産地で、国内消費が中心ですが、一部は韓国、日本、欧州に輸出されています。
用途は多岐にわたりますが、最大の用途は製鉄業での利用です。高炉での鉄鉱石還元剤として、また電気炉の炭素源として使用されています。無煙炭は不純物が少ないため、高品質な鋼材の製造に適しています。また、シリコンやフェロアロイなどの特殊金属の製造にも欠かせません。
民生用としても重要です。韓国では伝統的な床暖房(オンドル)の燃料として、ベトナムでは練炭の原料として広く使用されています。欧米では、高級住宅の暖炉用燃料として人気があります。煙が少なく、長時間燃焼するため、都市部でも使いやすいのが特徴です。
無煙炭は、最も古い地質時代の石炭です。主に古生代石炭紀から二畳紀(約3.6億年前から2.5億年前)の地層に見られ、その後の造山運動による極度の圧力と熱により形成されました。通常の石炭より深い位置(3,000メートル以上)に存在することが多く、採掘は技術的に困難です。
主要な無煙炭田は、地殻変動が激しかった地域に分布しています。中国の山西省には、世界最大の無煙炭埋蔵量があり、「晋炭」ブランドとして知られています。ペンシルベニア州東部も歴史的に重要な産地で、19世紀から20世紀初頭にかけて、アメリカの工業化を支えました。ベトナムのクアンニン省も、高品質無煙炭の産地として知られています。
採掘は、その硬さと深さのため、ほとんどが坑内掘りで行われます。中国では、深さ1,000メートルを超える立坑から採掘することも珍しくありません。採掘コストは高く、安全管理も困難ですが、無煙炭の高価値がこれらのコストを正当化しています。
無煙炭の品質は、炭素含有量により細分類されます。最高級の「メタ無煙炭」は炭素含有量98%以上で、ほぼ純粋な炭素です。標準的な無煙炭は86-92%、準無煙炭は86%前後です。用途により求められる品質が異なり、製鉄用では高純度が、民生用では着火性の良さが重視されます。
利用上の最大の制約は、着火の困難さです。揮発分が少ないため、直接火をつけることは難しく、通常は木材や瀝青炭を着火剤として使用します。また、燃焼には十分な空気供給が必要で、通風の悪い環境では不完全燃焼を起こすことがあります。
もう一つの制約は、供給の不安定性です。埋蔵量が限られ、産地が偏在しているため、政治的- 経済的要因により供給が途絶するリスクがあります。また、採掘の困難さから、生産量の急激な増加は期待できません。このため、代替燃料の開発や、使用効率の向上が常に課題となっています。
無煙炭は、石炭の中では比較的環境負荷が少ないとされています。硫黄分が低く、燃焼効率が高いため、単位エネルギーあたりの汚染物質排出量は、他の石炭より少なくなります。しかし、CO2排出は避けられず、脱炭素の観点からは問題があります。
製鉄業では、水素還元製鉄への移行が進められており、民生用では電化やガス化が進んでいます。しかし、その特殊な性質から、完全な代替は困難で、特定の用途では今後も使用が続くと考えられています。
新たな用途開発も進んでいます。高純度無煙炭を原料とした活性炭や炭素材料の製造、水処理用フィルター材としての利用などが研究されています。これらの高付加価値用途により、無煙炭は「燃料」から「材料」へと、その役割を変えていく可能性があります。
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。