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製鉄用高炉でコークス製造に使用される特殊な石炭で、粘結性(加熱時に溶融・再固化する性質)が必須です。鉄鋼1トンの生産に約0.7トンが必要で、現代製鉄に不可欠な資源です。オーストラリア、カナダ、米国が主要輸出国で、一般炭の2-3倍の価格で取引される高付加価値商品です。
原料炭(Coking Coal、またはMetallurgical Coal)は、製鉄用のコークス製造に使用される特殊な瀝青炭です。最大の特徴は「粘結性」で、無酸素状態で加熱すると軟化- 溶融し、再固化して多孔質の炭素塊(コークス)になる性質を持っています。このコークスが高炉での鉄鉱石還元と炉内通気性確保に不可欠なため、原料炭は現代製鉄業の基盤となっています。
原料炭が特別な理由は、その希少性と代替困難性にあります。世界の石炭埋蔵量の約10%しか原料炭品質を満たさず、しかも産地が限られています。また、高炉製鉄においてコークスの役割(還元剤、熱源、スペーサー)を同時に果たせる材料は他になく、鉄鋼生産には欠かせない戦略資源となっています。
一般炭との決定的な違いは、品質要求の厳格さです。発熱量だけでなく、粘結性、流動性、膨張性、灰分組成など、多くのパラメーターが規定範囲内である必要があります。このため、原料炭の価格は一般炭の2-3倍、時には5倍に達することもあります。
原料炭の品質は、コークス化特性により評価されます。最も重要な指標は、CSR(Coke Strength after Reaction:反応後強度)とCRI(Coke Reactivity Index:反応性指数)です。高品質原料炭から作られたコークスは、CSR65以上、CRI25以下という優れた特性を示します。これは、高炉内の高温- 高圧環境でも形状を保ち、通気性を維持できることを意味します。
粘結性の評価も重要です。ギーセラー流動度試験により、最高流動度(MF)を測定し、100-10,000ddpm(dial division per minute)の範囲で評価されます。また、ジラトメーター試験により、軟化開始温度、最高軟化温度、再固化温度を測定します。これらの指標により、単味使用か、配合使用かが決まります。
経済的特徴として、原料炭市場は寡占的で価格変動が激しいことが挙げられます。主要輸出国はオーストラリア(世界輸出の約55%)、カナダ、米国、ロシアに限られ、供給側の交渉力が強い構造です。また、鉄鋼生産と直結しているため、世界経済の動向に敏感に反応します。
現在、世界の原料炭消費量は年間約10億トンで、その約70%を中国が消費しています。次いで、インド、日本、韓国、ロシア、ウクライナが主要消費国です。粗鋼1トンの生産に約0.7トンの原料炭(コークス0.5トン相当)が必要で、世界の粗鋼生産量(約19億トン)と連動しています。
日本は年間約6,000万トンの原料炭を輸入し、世界第3位の輸入国です。新日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼などの高炉メーカーが主要需要家で、オーストラリアから約60%、カナダから約15%、米国から約10%を調達しています。長期契約が中心ですが、価格は四半期ごとに交渉で決定されます。
2024年現在の価格は、プレミアム強粘結炭で250-300ドル/トン、準強粘結炭で200-250ドル/トン、PCI炭(微粉炭吹込み用)で150-180ドル/トンです。2021年には中国の需要急増により、一時600ドル/トンを超える史上最高値を記録しました。
原料炭は品質により細分類されます。最高品質の「プレミアム強粘結炭」は、低灰分(8%以下)、低硫黄(0.6%以下)、高CSR(65以上)が条件です。オーストラリアのゴニアン炭、ピークダウンズ炭などが代表例で、単味でも高品質コークスを製造できます。
「準強粘結炭」は、やや品質が劣りますが、配合用として重要です。「弱粘結炭」「非微粘結炭」は、強粘結炭と配合することで使用されます。配合技術により、様々な品質の原料炭を最適に組み合わせ、必要なコークス品質を達成しています。
PCI炭(Pulverized Coal Injection:微粉炭吹込み用)も重要です。これは高炉の羽口から直接吹き込まれ、コークスの一部を代替します。揮発分が低く(10-25%)、燃焼性が良いことが求められます。コークス比低減による製鉄コスト削減に貢献しています。
原料炭市場は、中国の動向に大きく左右されます。中国は世界の粗鋼生産の約50%を占め、原料炭消費の70%を占めています。中国国内でも原料炭を生産していますが、品質が劣るため、高品質炭を輸入に依存しています。中国政府の生産調整政策が、国際価格に大きな影響を与えます。
供給側では、オーストラリアの寡占度が高まっています。クイーンズランド州のボウエン盆地に世界最高品質の原料炭が集中しており、BHP、グレンコア、アングロアメリカンなどの大手が生産を支配しています。天候リスク(サイクロン、洪水)により、供給が不安定になることもあります。
インドも重要な需要国として台頭しています。粗鋼生産量が世界第2位となり、原料炭輸入も急増しています。ただし、インドは価格に敏感で、低品質炭の使用比率を高める技術開発を進めています。これが、原料炭の品質別価格差に影響を与えています。
原料炭の価格形成は、四半期ごとの相対交渉が中心でしたが、近年はインデックス価格への移行が進んでいます。プラッツ、アーガス、TSIなどが日次で価格を公表し、これを基準とした取引が増えています。また、大連商品取引所やシンガポール取引所で先物取引も始まっています。
価格変動要因は多岐にわたります。中国の粗鋼生産量、インフラ投資、不動産市況などの需要要因、オーストラリアの天候、労働争議などの供給要因、さらに海上運賃、為替レートなども影響します。原料炭は一般炭より価格弾力性が低く、需給が逼迫すると価格が急騰する傾向があります。
長期契約でも、価格は変動します。従来の年次交渉から、四半期、月次、さらにはインデックス連動への移行が進んでいます。これにより、価格の透明性は向上しましたが、需要家の価格リスクは増大しています。ヘッジ手段の開発が課題となっています。
製鉄業は世界のCO2排出の約7%を占め、脱炭素化の重要なターゲットとなっています。高炉法では、原料炭使用によるCO2排出は避けられないため、代替技術の開発が進んでいます。水素還元製鉄、電炉法の拡大、CCUS技術などが検討されています。
当面の対策として、コークス比の低減が進められています。PCI技術の高度化により、コークス比を300kg/t-pig以下に削減する取り組みが行われています。また、廃プラスチックや バイオマスの高炉吹込みにより、原料炭使用量の削減を図っています。
長期的には、水素還元製鉄への移行が期待されています。しかし、技術的課題、コスト、水素供給インフラなど、多くの課題があります。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、原料炭は徐々に役割を減らしていくと予想されていますが、当面は製鉄に不可欠な資源であり続けるでしょう。
["冶金用炭","コーキングコール","Metallurgical Coal"]
瀝青炭
最も広く利用される石炭で、炭素含有量45-86%、発熱量5,500-7,000kcal/kgの高品質炭です。発電用の一般炭と製鉄用の原料炭の両方に使用され、世界の石炭生産の約半分を占めます。米国アパラチア、中国山西省、オーストラリアのボウエン盆地などが主要産地です。
褐炭
最も炭化度が低い石炭で、炭素含有量は25-35%、水分が30-50%と高く、発熱量は4,000kcal/kg以下です。主にドイツ、中国、インドネシアで産出され、採掘地近くの発電所で使用されます。輸送コストに見合わないため国際取引は限定的ですが、安価な国内電源として重要な役割を果たしています。
ニューカッスル指標
オーストラリアのニューカッスル港から出荷される一般炭の価格指標で、アジア太平洋地域の石炭価格のベンチマークです。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭のFOB価格として、日本、韓国、中国、台湾向けの取引で広く参照されます。2008年には過去最高の192ドル/トンを記録しました。
一般炭
発電用に使用される石炭の総称で、世界の石炭消費の約70%を占める最大用途です。発熱量5,500-6,500kcal/kg、硫黄分1%以下が標準的な品質で、中国、インド、米国が主要消費国です。環境規制により先進国では削減が進む一方、アジア新興国では依然として重要な電源です。
API2(ARA石炭)
欧州のアムステルダム・ロッテルダム・アントワープ(ARA)地域向け一般炭のCIF価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの南アフリカ炭を基準とし、欧州の石炭価格のベンチマークとなっています。ロシア産石炭の禁輸後は、南アフリカ、コロンビア、米国炭の重要性が増しています。
亜瀝青炭
褐炭と瀝青炭の中間的な品質を持つ石炭で、炭素含有量35-45%、発熱量4,500-5,500kcal/kgです。インドネシア、中国、米国で大量に産出され、低硫黄で環境負荷が比較的少ないため需要があります。アジア向け輸出炭の主力として、特に日本や韓国の電力会社が安定調達しています。
API4(リチャーズベイ)
南アフリカのリチャーズベイ港から出荷される一般炭のFOB価格指標です。発熱量6,000kcal/kgの標準品質炭価格として、欧州とアジア向けの重要な供給源の価格を示します。インド向け輸出の主要指標でもあり、年間約8,000万トンが取引されています。